ハッ! そ、そうだ! 私には頼もしい仲間たちがいる。まずは彼らを呼ぼう!

「レティオーッ!! ロミオーッ!!」

私は心の底から叫んだ!

「な、何だっ!? この女!」

「急に叫ぶな! だいたい誰だ? レティオにロミオって?」

私を抱えあげていた男2人が首を傾げる。

「レベッカ様! 彼らを呼んだのですね!?」

ミラージュが目をキラキラささて縛り上げられたまま私を見る。

「ええ呼んだわ! もはやこのピンチを切り抜けるには彼らを呼ぶしか無いのよ!」

一方サミュエル王子は散々抵抗した為、ついに猿ぐつわを噛ませられてしまっていた。それでもまだ暴れている。

「ムゴーッ! ムゴッ!」

「うわっ! こいつ、まだ抵抗しやがる!」

「ええいっ! お前は足だ! 足を押さえつけろ!」

「ぐわっ! こ、こいつ……俺を蹴り上げやがった!」

3人がかりで押さえつけられ、物凄い騒ぎになっている。もう少し我慢して! 頑張れ王子! 負けるな王子!
私は心のなかで声援を送りながら、彼らが来るのを待った。

その時――

ヒヒーン!!

遠くで馬の嘶きが聞こえ……さらに嘶きが聞こえた。

ヒヒーン!!

パカラッパカラッパカラッ!!

馬の蹄の音がどんどんこちらへ向かって近付いてくる。

「な、何だ? 何か聞こえないかっ!?」

船長がキョロキョロあたりを見渡し、船員たちはざわめく。

そして――

ドガッドガッドガッ!!

蹄の音はついにここまでやってきた。

「うわあああ!! 馬だ! 2頭の馬がこちらへ向かって駆けてくるぞ!」

甲板から港を覗き込んでいた船長がご丁寧に説明するべく声を上げた。

「な、何だって!?」

「どういう事なんだよ!」

「俺たちも見に行こうぜ!」

船員たちは次々に私達を放り投げ? ると一斉に甲板の手すりに向かって駆けていく。

「大丈夫ですかっ!? レベッカ様!」

ミラージュがいつの間にかどさくさに紛れて縄をちぎって私のもとへ駆け寄ってきた。

「さすがはミラージュね」

ミラージュが縄を解いてくれた。

パラリ

縄が私の足元に落ちたので、今度は私達よりも離れた場所で芋虫にされているサミュエル王子に駆け寄ろうとした瞬間――

「うわあああ!!」
「ぎゃあ!」
「う、馬が!!」

船員たちが悲鳴を上げた。次の瞬間――

ヒヒーン!!

馬の嘶きと共に、空中に舞い上がる船員たち。見ると暴れ狂った私達の愛馬、ロミオとレティオが船員達の襟首を噛んで暴れ狂っているのだ。そして彼らによって1人、また1人と咥え上げられ、空中に放り投げられ、きれいな放物線を描きながら、甲板へ叩きつけられる。

ドスッ!

「うぐ……」

ドスン!

「ぐえ……」

ドサッ!

「ぐう……」

様々な落下音、様々なうめき声と共に次々と甲板に叩きつけられる船員たち。気づけば全員その場に伸びていた。ただ1人、船長だけを残して。
おお! さすがはレティオとロミオ。船長だけを残すなんてやってくれるじゃないの。

「や、やめろ……よ、よせ……」

船長は青ざめ、彼らにマストまで追い詰められていた。レティオとロミオはジリジリと船長ににじり寄っている。はたから見るとなかなか愉快な光景だ。

「レベッカ、君が彼らを呼んだんだね?」

いつの間にかミラージュが縄を解いたのか、サミュエル王子が私のそばにやってくると声をかけてきた。

「はい、そうです。ミラージュが縄を解いたのですね?」

「ああ、そうさ」

サミュエル王子は背後にいるミラージュを見た。するとミラージュが尋ねてきた。

「さあ、レベッカ様。あの船長をどう料理するおつもりでしょうか?」

「ええ、そうね……。サミュエル王子はどうすれば良いと思いますか?」

私はサミュエル王子を見た。

「勿論、そんな事は決まっているさ」

サミュエル王子は不敵な笑みを浮かべた――