浅黒い肌に塩風で黄色く染まった髪をした10人前後のツナギの服を着た男たちが私達を見下ろしている。
その中で1人、貴族のような品の良いシャツにボトムスを履いた若い男性が口を開いた。

「全く、こいつ等は貧しい身なりのくせによりにもよって海軍国家として名高い『ヴァルディオ』王国の船に乗り込んでくるとは図々しい奴らだ!」

私達は全員身体をロープでぐるぐる巻にされた状態で甲板の上に転がされていた。本当は私達が『力』を使えば、こんな目に合うことは無いのだけれど、何しろこちらは不法侵入。しかも彼らはただの船員に見えたので反撃しようとしたミラージュを私が止めたのだ。

「こ、こら! お前達! よくも俺達をこんな目に遭わせたな? 早く縄を解け! 今ならこの無礼を許してやるぞ!」

縛り上げられて芋虫のような姿にされてしまったサミュエル王子は甲板の上で身をよじりながら男に向かって抗議した。

「ほーう。この俺に向かってそのような口を聞くとはな。良いか、俺はこの船の運行を任された船長なのだぞ!」

身なりの良い男は腕組みしながら不敵な笑みを浮かべる。

「まあ!? 何ですのっ!? たかが船長のくせにそんな横柄な態度を取るなんて! 一体私達を何だと思っているのですかっ!?」

ミラージュが怒りの声を上げる。ま、まずい……! このままではまたドラゴンの本性が……!

「ミラージュ! 落ち着いて、深呼吸よ、深呼吸!」

「は、はい。レベッカ様。す〜は〜す〜は〜」

ミラージュが深呼吸を始めた。

「船長、コイツラ何者なんでしょうね?」

ガタイの良い船乗りの1人が男に尋ねた。

「そうだな。こいつらあまりにも怪しすぎる。数ある船の中からこの船を選んで乗り込んで来たのだからな……。ひょっとするとこの船に密航して『ヴァルディオ』王家の王族たちの暗殺を企てているのかもしれん」

ええっ! な、何て極論を言うのだろう?

「おい! そんなはずないだろうっ!?」

サミュエル王子が喚く。

「ええ! 失礼ですわね! 何故私達がそのような真似をしなくてはならないのです!?」

ミラージュも叫んでいる。うん、うん。ミラージュの気持ちも良く分かる。彼女は人1倍プライドの高いドラゴンだ。こんな縄なんかその気になれば一瞬で引きちぎることだって可能だ。それを怪しまれないようにあえてお縄についてしまったのだから悔しいことこの上ないだろう。……等と考えていると男が船員達に向かって命令した。

「よし! とりあえずコイツラを船内の牢屋に閉じ込めておけ!」

『はい!』

たちまち私達は船員たちに数人がかりで担ぎ上げられてしまった。

「な、何だってっ!? お、おい! お前等、この俺を誰だと思っている! 『ガーナード王国』第三王子のサミュエル・エドワルドだぞっ!?」

サミュエル王子はもがきながら必死で叫ぶ。

「ハッハッハッ!! 貴様のような乞食のような身なりの男が王子のはず無いだろう? お前が王子なら俺は国王だ!」

男は高笑いした。

ああっ! やっぱり私の嫌な予感が当たってしまった!

「な、何だって!! この俺が乞食だとっ!?」

割と温厚な? サミュエル王子が顔を真っ赤にしてカンカンに怒っている。
そして一方のミラージュの方も大変だ。

「あなた達! ただの人間のくせにこんな真似許されると思っているのですか!?」

一方、私の方では2人がかりで抱えている船員が話し合っている。

「この女……他の2人と違って妙におとなしいな?」
「ああ、それに汚らしい身なりをしているが……よく見ると物凄い美少女だ」

物凄い美少女……言われて悪い気はしないが、彼らの次の言葉に肝を冷やした。

「後で俺たちとイケナイ遊びをしようぜ?」
「そうだな、皆で楽しもう」


「な、何ですって〜っ!!」

大変だ! こっちはまさに貞操の危機が迫っている! 早いところ、この危機的状況を何とかしなければ!

私は必死で考えた――