宿場町としても栄えている『ラメール』の町の港は流石大陸間を結ぶ中継地点というだけあって、呆れるほど沢山の船が寄港している。そしてサンサンと太陽が照りつける港を私達3人は血眼になって貴族の船を探し続けていた。
そして小一時間程経過した頃……。

「見つけたっ! ついに貴族の船を見つけたぞっ!」

サミュエル王子の狂喜乱舞する姿が前方50m程先で目に入った。私は一緒に探しているミラージュに声をかけた。

「ねえ、ミラージュ。どうやらサミュエル王子がついに貴族の船を見つけたみたいね。行ってみましょう?」

「ええ、そのようですね。あの様に興奮しまくっている姿を見れば一目瞭然ですわ。それに先程からサミュエル王子の雄叫びが耳の良い私にビンビンに聞こえてきていますから」

私達は急いでサミュエル王子の元へ駆け寄った。



「サミュエル王子! ついに貴族の船を見つけたのですね!?」

駆け寄るとサミュエル王子は一際大きく、輝くような美しい船体を前に目をキラキラさせて見上げていた。

「まあ、これが貴族の船ですか? 確かにそんじょそこらの船とは比べ物にならないほどの大きさですわね」

ミラージュが眩しい太陽の光を手で遮るように見上げている。

「そうだよ。いいかい、驚くなよ2人とも。この船は何と海運国家として名高い『ヴァルディオ』王家の船なんだよ!」

「ええっ?! 貴族ではなく王族の船ですかっ!?」

それはまたなんともレベルの高い船なのだろう。果たして今の庶民レベルの姿をしている私達がこの王族の船に馬2頭と幌付きとは言え、お世辞にも決して立派とは言えない馬車を乗せてくれるのだろうか? しかし、サミュエル王子はそんな事お構いなしだ。

「さあ、早速あの船に乗ってみよう。丁度おあつらえ向きにタラップが降りているからね。あそこから乗り込もう。きっと誰かしら船に乗っている筈さ」

けれど、勝手に乗り込めば不敬罪として捕らえられてしまうのではないだろうか?

「いやいや、いくら何でも駄目でしょう? そんな事をしては」

『ヴァルディオ』王家の船に向かって歩き出すサミュエル王子の服を掴んで慌てて引き止める。

「ええ、そうですわ。サミュエル王子。流石に勝手に乗り込むのはまずいです」

おお! かなり大胆行動をするミラージュにまで引き止められた。

「まずは、あの船の甲板に向かって大きめの石を狙い定めて放り投げるのです。あの船に誰かしら乗っていれば、石の落下音で気付くでしょう。その時にこの船に乗せて貰いたいと交渉するのです」

前言撤回。やはりミラージュはミラージュだった。

「2人とも、何をそんなに心配しているんだ? こう見えても俺は『ガーナード王国』の第3王子だよ? 王族の者たちなら俺の事を知っているはずさ。だから何も不安に思うことは無いって」

サミュエル王子は自信たっぷりに言うが……果たして本当にうまくいくのだろうか?こ う言っては何だが、今の私達ははっきり言ってとても王族のようには見えない。3人共まるで村人のようなヨレヨレの古びた服を着ているのだから。

「大丈夫だって、俺に任せろ!」

サミュエル王子は至って前向きだ。こうなったら彼を信じてついていくしかないかもしれない。

「分かりました。サミュエル王子を信じましょう。いいわね? ミラージュ」

「勿論です。私はいつでもレベッカ様の信念に従いますわ」

そして私達はサミュエル王子の後に続き、勝手に船に乗り込み……全員捕らえられてしまうのだった――