ガラガラガラガラ……

私達を乗せた『レベッカ号』。今日も青空の下、御者無しで2頭の馬が草原を駆けてゆく。


「しかし、流石はレベッカだね。とうとう2頭の馬を完全に手懐けて御者無しで走らせることが出来るようになったのだから」

幌付きの馬車に木のベンチが付いて、格段に乗り心地の良くなった馬車の上でサミュエル王子が話しかけてきた。

「ええ。何といっても動物たちは皆私の友達ですから」

そう、『レベッカ号』を引く2頭の馬たちは、今ではすっかり私の言う事を何でも聞く良い仲間になっていた。今では御者がいなくてもちゃんと走ってくれるのだ。お陰でサミュエル王子の御者としての役割は終わった。

「ところでミラージュは今どこを飛んでいるんだろうね?」

サミュエル王子は幌の中から顔を覗かせ、空を見上げる。

「さあ……でも多分この馬車に目が行き届く範囲内を飛んでいると思いますよ。何せ久々に人の気配が全く無い草原を進んでいるのですから、ドラゴンの姿に戻って大空の下を飛びたいんでしょうね」

私も幌から顔を出して空を見上げると、青空の中に一つだけ、黒い点のようなものが浮かんでいる。見つけた!

「ほら、見て下さい。サミュエル王子。あの青い空の中にポツンと小さな点があるのが見えますか?」

「うん?あ……見える! 見えるよ、レベッカ! え……? ひょっとして、あれがミラージュなのかい?」

サミュエル王子は目を見開いて私を見た。

「ええ、そうです。あれがミラージュですよ。ミラージュはとっても視力がいいですからね。私達を見失う事は決してありません。それにミラージュは耳もいいんですよ。きっと今大きな声で呼べば一瞬で目の前に現れてくれますよ」

「へ~ミラージュは本当に凄いんだね? 流石は偉大なドラゴンだ」

「ええ。そうなんです」

ミラージュの事を褒められるのはやっぱり嬉しい。生まれた時からずっと一緒に暮らしてきたのだから、ミラージュは私にとって大切な存在だ。

「ところでレベッカ。僕らが旅を続けて半年近く経過するけど、君のお母さんの情報が全く掴めないね」

「ええ、そうですね。お父様しか知らないようですからね。でも肝心のオーランド王国は滅びてしまったし、お父様やお姉さま達の居場所が分りませんからね」

「そこで一つ、俺に考えがあるんだけどね?ちょっと聞いてみないかい?」

「考えですか? 是非教えて下さい!」

「ああ、俺がガーナード王国にいた時の話なんだけど、年に一度だけ占い師を呼んで国の行く末を占って貰っていたんだ」

「占いですか?」

「そうだよ。そしてこの占いが本当に良く当たるんだ。だからガーナード王国では毎年その占い師を城に招いて、多額の報奨金と引き換えに占って貰って来たんだ。実はあのアレックス王子の愛人だったリーゼロッテと彼女の家族の悪事を暴いたきっかけもその占い師のお陰でもあったのさ」

「えっ!? そうなのですか!」

すごい! 相当の占いの腕前の持ち主なのかもしれない。

「だからさ、その占い師の元を尋ねてみないかい?」

「おお~それは良い考えですね。それでその占い師は何所にいるのですか?」

「西の大陸にある国『ノマード』という国があって、そこからやって来たと言ってたかな?」

「なるほど……では私達の次の目的地はそこに決定ですね!」


 こうしてサミュエル王子の提案により、私達の次の目的地が決まった。

『ノマード王国』……いったいどんな国なのだろう? 今からとっても楽しみだ――