「あら? 何かしら? 今何か声が聞こえなかった?」

ジョセフィーヌが茂みの奥で隠れているアレックスとゴードンの方を振り返った。同じくランスも背後を振り返る。

「「……」」

茂みに身を潜めているアレックスとゴードンは両手で口を抑えながら互いを牽制しあっている。

「う〜ん……別に誰もいないみたいだけどね?」

ランスはのんびり言うが、ジョセフィーヌは落ち着かない。

「ねえ、でも何だか気味が悪いわ。さっきからずっと誰かに見張られているようで落ち着かないのよ」

「う〜ん……確かに言われてみればさっきから背後で刺すような視線を感じるね。よし、場所を変えよう。実は絶景のポイントを見つけたのさ」

「本当? 行ってみたいわ」

そしてランスとジョセフィーヌは立ち上がると、仲よさげに手をつないで立ち去っていく。後に残されたのはアレックスとゴードンだ。

「「……」」

2人は互いに牽制し合うように睨み合うと、最初に口火を切ったのはゴードンである。

「お、おいっ! 貴様は確かアレックスだな!? グランダ王国の第2王子でレベッカの夫になった色欲に狂った男だろうっ!?」

「誰が色欲に狂った男だ! そっちこそオーランド国王のレベッカの父親だな? 実の娘に満足に教育も受けさせずに、ずーっと彼女を虐げて来たクズ親父だなっ?」

そう、2人はレベッカの婚姻の話をまとめる為に何度も顔合わせをしている。つまり互いの顔を知っていると言う事だ。

「誰がクズ親父だっ! 貴様! 私の可愛いいレベッカを何所へやったっ!! 貴様がろくでなしだからレベッカを追い出したのだろう!? もしくは女癖が激しいからレベッカを泣かせたんじゃないだろうなっ!?」

ゴードンはアレックスの首を締め上げた。

「何が可愛いレベッカだっ!! レベッカに何一つ貴族としての嗜みも身に付けさせてこなかったくせにッ!! 大体、オーランド国ではレベッカの輿入れの際に巨額の資金を与えたはずなのに、あの恰好は何だっ!? 王女でありながら平民と変わらぬ服装でやってきたんだぞっ!? 貴様、あの金を横領しただろうっ!?」

アレックスも負けじとゴードンの首を締め上げる。

「黙れっ! 貴様なんぞに可愛いレベッカを嫁に出すべきでは無かった! さあっ! 今すぐレベッカの居場所を吐け!」

「うるさいっ! 貴様こそ本当はレベッカの不思議な力に気付いたのだろう!? だから惜しくなって今更連れ戻しにやって来たのだろう!? 貴様らの国が滅びたのはっ知ってるんだぞ!!」

アレックスが喚く。

「何だとっ!? 貴様らのグランダ王国も滅びたくせにっ!!」

ゴードンは怒鳴る。
その直後、ゴードンはある事に気付いた。

「おい……待てよ? そう言えば娘が言ってたな……。1週間ほど前からこの村にやってきた親子連れがいると。何でも人探しの旅を続けているらしいが……まさかそれって貴様らの事なのか? 人探しとはつまりレベッカの事だろう!? うん? ひょっとして先ほどのジョセフィーヌのデート相手は……貴様の兄かっ!?」

ゴードンは怒りで顔を赤らめながらアレックスを見た。

「ジョセフィーヌなんて女は知らんっ! だが、さっきそこにいた男は俺の腹違いの兄に違いないがな」

「な、何だって……!? ジョセフィーヌと恋仲になった男は貴様の兄なのかっ!? 認めんっ!! 絶対に認めんからなっ!!」

「黙れっ! こっちこそレベッカを虐げてきた女など願い下げだっ!!」

この夜、ゴードンとアレックスはランスとジョセフィーヌのデートを妨害する事を忘れ、一番鶏が鳴くまで激しい口論を続けた――