ガタゴトガタゴト……

 雨上がりのぬかるんだ道を走る馬車。
そして激しく揺れる荷台の上で俺は今激しく後悔していた。何故あれ程までにレベッカを酷く拒絶してしまったのか……。
大切に愛でてやっていれば、こんな事にはならなかったのに――


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 政略結婚の話が出た時、正直言うとまるで興味が無かった。何故なら俺の愛する女性はガーナード王国に謀反の罪で捉えられてしまったリーゼロッテただ1人なのだから。
それでも結婚する限りは例え愛が無くても夫の務めくらいは果たしてやろうかと思っていた。女を抱くくらい、どうって事はない。何と言っても俺はテクニシャンだから、ほんの数回相手をしてやるだけで、大抵の女は陥落してしまう。
適当に夜の相手だけしていれば、そこに愛があろうが無かろうが関係ない。俺にその気が無くても、きっと自分は夫に愛されていると錯覚するに決まっている。

 結婚相手はオーランド王国の第4王女レベッカ・ヤング。まだ若干17歳の少女だという。
それにしてもオーランド王国の国王は俺の評判を知っているのだろうか?
俺は女に手が早いということで、貴族連中に良く思われていない。その為か、20歳を超えても未だに独身で決まった婚約者すら出来なかったのだ。

それが相手の王女はオーランド王国。あの弱小国だろう? しかも第4王女だと?
俺はこの国の正当な王位継承者。それなのに第4王女を嫁によこすとは失礼な。やはり俺の女癖の悪さが辺境国家にまで行き届いているのだろうか? 俺をそんな舐めた目で見るならこちらも考えがある。あいつらに嫌がらせをしてやるのだ。


父が外遊に数ヶ月出かける日程が決まってから、俺はオーランド王国に手紙を送った。内容はこうだ。

この手紙を受け取ってから2週間以内にグランダ王国に来るように。
その際、俺から直に迎えにも行かないし、迎えの者もいかせない。お前たちだけで自力でやってこいと命じた。
さらに連れてきて良い使用人は1人のみ、結婚式の時にはオーランド王国の人間は1人も参加させない。

これだけの悪条件を突きつければ、第4王女などではなく、もっと序列の高い娘を嫁に来させるに違いないだろう……。そう思っていたのに、あの国は俺の提示した条件をあっさり飲んだのだ。
その事を知った時にはもう馬鹿らしくて結婚相手の身上書すら見る気も失せていた。

そしてレベッカはグランダ王国にやってきた――


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 何だ? この女は……?

 俺は目の前に立っているレベッカを見た。
物凄い美少女だった。今まで多くの女性を相手にしてきたが、これほどの美少女は見たことが無かった。そしてそれと同時に湧き上がってくる、この女に対してのどうしようも無いほどの嫌悪感。
できるだけこの女とは関わりたくない。まして夫婦としての営みなど冗談じゃない。こんな女に指1本でも触れたいとは思えない。出来れば今すぐにでも俺の目の前から消えて欲しいと思える程に嫌悪感が湧き上がってきたのだ。

 気付けば俺はレベッカに対してこう、言い放っていた。

「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。今の言葉を胸に刻み込んでおけっ!」

驚いて立ち尽くすレベッカに俺は憎悪に満ちた目で指を差していたのだった――