それから1週間が経過した。私たち3人はアマゾナが経営する宿に滞在して楽しい時を過ごした。皆で近くを流れる川で魚釣りをした時は、思いがけない位大量の魚が釣れたとアマゾナ達は大喜びしたし、私の加護のお陰で畑の作物はぐんぐん成長し、大豊作となった。
裏山の洞窟に入れば鉱石が埋まっており、村人たちは大喜びで採掘に励み、たった1週間で 『アルト』の村はお金持ちになって人口も200人程増えたのだった。

 そして以前からアマゾナにお願いしていた温泉の工事が終わり、本日ついに安心して入浴できる温泉がオープンしたのだった――



――その日の夜の事

ミラージュと夜空に輝く星空を眺めながら露天風呂に入り、至福の時を過ごしていた。

「早いものね~『アルト』の村に滞在してもう1週間が過ぎたんだもの」

「ええ、そうですね。楽しい時間というのはあっという間に過ぎるものですね。尤も私のようなドラゴンは人間たちよりもずっと長い時を生きるし、レベッカ様だってその気になればずっとずっと長く生きていく事も出来ますけど……それでも時が経つのは早く感じるのではないですか?」

「うん……そうね」

ミラージュが何を言いたいのか大体の見当はついていた。ミラージュの本当の目的は私のお母様を見つける事だ。口には出さないけれども恐らく、そろそろお母様を探す旅に出たいのだろう。お母様の事を全く覚えていない私と違ってミラージュは長くお母様と一緒に暮らしていたのだから。

でも本音を言えば、私はもう少しこの村に残りたい気持ちはあった。アマゾナにはこの気持ちは内緒だけど、私にとって彼女はまるでお母さんの様に思える存在だったから。後ほんの少しだけお母さん? の傍にいたいと思っていたけど……でもサミュエル王子にしたって、どうもそろそろ出発したようなそぶりを見せていた。
最近馬の手入れと新しく用意して貰った馬車の手入れに余念がないからだ。何だか最近のサミュエル王子が御者の様に見えてしまうほどに。

「ねえ、ミラージュ」

「はい、レベッカ様」

「明日……出発しない?」

「え……? よろしいのですか?」

ミラージュが大きな目を見開いた。

「うん。だって旅の目的はお母様を探す事と、貴女のお父さんの住むドラゴンの国へ行く事だものね」

「ですが……」

ミラージュは分っているのだろう。私がこの村を離れがたく思っていることを。

「いいの。いいの。旅の目的を果たした後はまたこの村に来るつもりだから」

するとミラージュは真剣な瞳で私を見た。

「レベッカ様。私は例えこの先、旅の途中でどんな出会いがあろうとも、途中でリタイアする事は決してありません。いつまでもずっとレベッカ様のお傍にいますからね」

「ありがとう、ミラージュ」

そしてわたしは夜空を見上げ……景気づけに10個ばかりの流れ星を夜空に作り上げたのだった――



****

――翌朝10時

「本当にもう行ってしまうのかい?」

村の出入り口で1人見送りに来たアマゾナが残念そうに馬車に乗り込んだ私達を見上げた。

「ええ。ごめんなさい。アマゾナさん。あまり長居するとこの村を離れがたくなってしまうから。それに私には旅の目的があるし。でもこんなに沢山いただいていいのでしょうか?」

馬車にはアマゾナが用意してくれた大量の食べ物や飲み物が入っていた。

「いいんだって、ほんの餞別だから」

アマゾナは快活に笑う。

「大丈夫。必ずまたこの村に戻って来るさ。この村は俺の第二の故郷だからな」

「ええ、その通りですわ。旅の帰りに是非寄らせて頂きますわね」

サミュエル王子とミラージュもアマゾナに声をかけた。

「ああ……待ってるよ」

そしてアマゾナは私を振り向く。

「ありがとう、レベッカ。あんたはこの村の救世主だよ。いや、女神様とでも呼んだ方が良いかな?」

そして意味深に笑う。

え? まさか私の力がアマゾナにばれたのだろうか?

「あの、アマゾナさん! 私……」

しかし最後の台詞を言い終わる前にアマゾナが声を上げた。

「それじゃあな! あんた達、元気でな!」

そして馬の脇腹を強めに叩く。

「ヒヒーンッ!!」

途端に馬がいななき、ガラガラと馬車は走り出した。

「ア、アマゾナさん! 必ずまた来ますからねーっ!!」

馬車から身を乗り出した私は手を振ってアマゾナに別れを告げた――


<終>