サミュエル王子が目を覚ましたので私は慌てて指をパチンと鳴らすと雨雲を消した。

「あ? サミュエル王子、目が覚めましたか?」


2m程距離を取りながらサミュエル王子に声をかけた。

「ああ……レベッカ。良かった、無事だったんだな? ん? 何故俺はびしょ濡れなんだ?」

サミュエル王子は自分がずぶ濡れなっていることに気づき、首をかしげた。

「実はついさっきまで辺り一面土砂降りの雨が降ったんです。それでサミュエル王子は雨に当たって濡れてしまったんですよ。ところでサミュエル王子、先程までご自分が何をされていたか覚えてらっしゃいますか?」

さり気なくサミュエル王子に近付いてみると、すでにあの鼻のもげそうな強烈な臭いは大分消えていた。

「いや、それがモグラが出たと言う騒ぎを聞いて外に飛び出してからの記憶が殆ど無いのだが……それにしても何故バザー会場が滅茶苦茶になっているんだ?」

サミュエル王子はようやく辺りの惨劇? に気付いたのか、なぎ倒されているテントの山を見て首を傾げている。そしてそこにはバザー会場に訪れた人々が大勢集まっていた。
ある者は商品が全て駄目になってしまったと泣き崩れる者もいれば、ある者は全身泥まみれになってガタガタ震えている者もいる。
う~ん……かなり怖い目にあったのかもしれない。

その時――

「レベッカ様ー!」

こちらへ向かって大きく手を振りながら駆けつけてくるのは、私の侍女兼、最高の相棒のミラージュである。

「あ! ミラージュッ! お帰りなさい! どうだった?モグラの方は?」

「ええ、全ての巨大モグラは私の必殺技『超音波』で遙か彼方へフッ飛ばしてやりましたわ」

ミラージュは胸を反らせながら自慢気だ。

「そう、それはご苦労だったわね。お疲れさま、ミラージュ」

するとサミュエル王子が叫んだ。

「あーっ! そ、そうだっ! 思い出した! 俺は……巨大モグラと戦う為に剣を構えていたら強烈に口臭いモグラに襟首をつ、掴まれて……大きな舌でベロリと舐められてしまったのだっ! それであまりの臭さに耐え切れず失神してしまったんだ!」

えっ!? サミュエル王子が失神してしまったのはモグラに舐められたショックでは無く、あまりの臭さに失神してしまったなんて!

「うげ~っ! き、気持ち悪いっ! 今すぐ身体を洗いたい! ついでに着がえもしたい!」

サミュエル王子は余程気分が悪いのか、身悶えている。うん、確かに雨のお陰で大分匂いは取れているけれども、やはりまだ十分臭い匂いは残っている。その証拠に鼻が利くミラージュは片手で鼻をつまんでいる。

「そうだわ! サミュエル王子! ここには素晴らしい温泉があるんですよ? 是非そこで身体を洗ってさっぱりしてきてください」

「え? 温泉があるのかい?そ れは素晴らしい! 是非案内してくれないか?」

サミュエル王子が近付いて来たので、私はサササッと適度な距離を取りながら頷いた。

「ええ、勿論です。ところで石鹸や着がえはありますか?」

「あ……」

途端に顔面蒼白になるサミュエル王子。

「まさか……サミュエル王子。荷物をお持ちじゃないんですか?」

私の問いにコクリと頷く。

「まあ! 仮にも王子様ともあるべきお方が、着がえ1つお持ちじゃないなんて!」

ミラージュは驚いたように叫ぶ。しかし、きっとこれは私のせいなのだ。恐らくサミュエル王子はグランダ王国にやってきた時、それなりの荷物を持ってきていたはず。だけど私があの国を崩壊させてしまったので、サミュエル王子も荷物を紛失してしまったのだろう。

「申し訳ございませんでした。サミュエル王子……」

思わず項垂れて謝罪する。するとサミュエル王子は首を傾げる。

「え? 何故レベッカが謝るんだい?」

「そ、それは……」

そこまで言いかけた時――


「あ! あんた達! ここにいたんだねっ!?」

背後から声をかけられて振り向くと、そこにはアマゾナが立っていた――