え? 聞き覚えのあるあの声は……?

慌てて声の聞こえた方角を向くと、そこには剣を構えて巨大モグラに対峙しているサミュエル王子がいた。
おおっ! なんと勇ましい……と思っていたが、よく見ればまだワインが抜けきっていないのか、顔は赤らみ足元はふらついている。

「はは〜ん……どうやらサミュエル王子はまだ酔いが冷めていないようですね?」

ミラージュが言うのも無理はない。サミュエル王子は剣を振るっているがそれはもう滅茶苦茶で、しかも挙句の果てには何も無いところに向かって剣を振り回している。

「まずいですね……あれではますます酔いが回ってしまいそうですよ?」

「ええ、そうね。あれでは今にモグラに倒されてしまうかもしれないわ」

しかし、言ってる矢先に突然モグラがサミュエル王子の襟首をむんずと掴んで空中に釣り上げてしまった。そしてあろう事か大きな口を開けたではないか。すると途端にサミュエル王子が騒ぎ出した。

「ぐわっ!! く、臭いっ!! な、なんて臭い口なんだっ!! や、やめろっ!」

そして次の瞬間……。

ベロリ

なんとモグラが大きな舌を伸ばしてサミュエル王子を舐めたのだ!

「……」

涎まみれになって呆然としているサミュエル王子だったが、次の瞬間……。

ガクッ!

突然糸の切れた人形の様なってしまった。そして手から滑り落ちる剣。

「キャアアアッ!! サミュエル王子っ!!」

「まあ! 大変ですわっ!!」

どうやらサミュエル王子は巨大モグラに一舐めされ、あまりのショックに気絶してしまったようだ。でもその気持ちは良く分かる! 私だってあんな真似をされたら気絶するか、ショックのあまりに力が発動して天変地異を引き起こしてしまうかもしれない。

巨大モグラはぐったりしたサミュエル王子をつまみ上げながら、今度は巨大な口を開けた。

「イヤアアアッ!! サミュエル王子がた、食べられてしまうわっ! ミラージュッ! 何とかしてっ!」

思わず絶叫してしまった。

「お任せくださいっ!!」

ミラージュは口を開けると、ドラゴンの必殺技『超音波』でサミュエル王子を食わんとするモグラめがけてぶっ放した!

ドーンッ!!

激しい衝撃波を食らって空高く飛ばされる巨大モグラ。そして地面に放り出されるサミュエル王子。

「すごい! やるじゃない、ミラージュッ! 貴女、腕をあげたわね?」

あんな対象物だけを吹き飛ばす必殺技なんて初めて見た。

「いえいえ。それ程でもありません。ですが、もっと褒めて頂ければ嬉しいですね」

ミラージュは照れたように笑う。

「凄い! 流石! 天才! ミラージュ最高っ!! だから、残りのモグラも同じ技でぶっ飛ばして頂戴!」

「ええ! お任せ下さい!」

ミラージュは残りの巨大モグラ目指して駆けだして行った。そして私は急いでサミュエル王子の元へ急ぐ。

「サミュエル王子! 大丈夫です……イヤアアッ!! く、臭いっ!!」

何て強烈な臭さなのだろう。今にも鼻がもげてしまうのではないかと思われる程の強烈な臭いの為にサミュエル王子の近くに寄ることが出来ない。かくなる上は……。
私は辺りをキョロキョロ見渡し、近くに誰かこちらを見ている人たちがいないか確認した。しかし誰もが巨大モグラの出現にパニックを引き起こし、逃げまどっている。

「この分なら力を使っても大丈夫そうね……」

そこで私は気絶して地面に伸びているサミュエル王子のすぐ真上にミニチュアサイズの雨雲を作り、雨をザアザアと降らせた。いわゆる即席シャワーのようなものである。この雨でとりあえず臭い匂いは消えてくれるはずだ。

「う~ん……」

やがてサミュエル王子がゆっくり目を開けた――