「レベッカ様、今の外の騒ぎが聞こえましたか?」

ミラージュが興奮した目で私を見る。

「ええ。ばっちり聞こえたわ。でもどうやらあの騒ぎは楽しんで騒いでいるようには聞こえないわね?」

私は椅子に座りながら返事をした。

「ええ、そうですね。どちらか言うとパニックになって騒ぎが起こっているという感じがします。様子を見に行った方が良いのではないでしょうか?」

ミラージュの言葉に迷った。

彼女は好奇心旺盛、キラキラ目を輝かせてこちらを見ている。出来れば私としては、かなり疲れていたので少し宿屋でゆっくり休みたかった。
何故疲れているかと言えば、理由はただ一つしかない。ガチガチの緊張状態で温泉に浸かったからである。
やはり温泉というのはリラックスしながら入浴したいものだ。
アマゾナに是非ともあの温泉を普通の人でも使いやすいように改良して貰えるように頼んでおかなければ……等考えて現実逃避してみたが、焦れた様子のミラージュに再度急かされる。

「レベッカ様、あの騒ぎはバザーの方角から起きていますよ。バザーと言えばアマゾナさんが向かった場所ではありませんか? アマゾナさんはあの間抜け王子に一泡吹かせてくれた恩人ですよね? それにもし万一彼女に何かあれば私たちは3食の食事と寝る場所を失ってしまうかもしれませんよ?」

「えっ! それは困るわっ! すぐにバザー会場へ向かうわよっ!」

私は椅子から立ち上がった。

「ええ、そうこなくては!」

そして私とミラージュは一目散にバザー会場へと向かった。



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「うわーた、助けてくれっ!」
「キャアアッ! 魔物! 魔物がいるわっ!」
「ああ! それを食べないでくれっ! 大切な商品なのだっ!」
「イヤアアア! こ、こっちに来ないでぇっ!」


「こ、これは……!」

バザー会場へ着くと、そこは酷い有様になっていた。設営されたテントは殆どなぎ倒され、ゆうに3mはあろうかと思われる巨大生物が、1、2、3……合計5匹で暴れまくっていたのだ。
彼らはお客や商人たちを追い回し、時には彼らの売り物の野菜や果物を食い散らかして、その魔物の傍ではこの店の店主が泣いてやめてくれと訴えている。

「これは……面白い、いえ、酷い事になっていますね」

ミラージュがドラゴンの闘争本能に負けて本音をポロリと言いかけてしまった。

「ええ、そうね……」

私はなるべく巨大生物がズシンズシンと暴れまわっている姿から視線をそらせつつ、返事をする。
そうだ……あの未知の生物はきっと、アレに違いない。考えたくは無いが、先程畑で対峙した小動物の親玉……。

「レベッカ様! あの巨大生物はモグラですっ! どういう仕組みなのか謎ではありますが、極端に肥大化したモグラですよっ!」

「イヤアアアッ! や、やっぱりぃぃぃっ!!」

思わず頭を抱えて絶叫してしまった。基本私は動物は大抵好きだが、モグラだけはどうしても頂けなかった。それなのにまさか、バザー会場で暴れまくっているのがモグラなんて!

「落ち着いて下さい。レベッカ様。あれはモグラではありません。何故ならモグラはあそこまで巨大化する事は生物学的にあり得ないからです。なのであれはモグラに姿を変えた魔物です。そしてあの魔物を倒す事が私達の使命なのです!」

ミラージュは興奮気味に話す。別にモグラを倒すのが使命だとは思わないけれども、この惨状を止められるのは私達だけしかいないだろう。

その時――

「おのれ! このモグラめっ!」

聞覚えのある声が私の耳に飛び込んできた――