「何だい? その温泉ていうのは?」

アマゾナは温泉を知らないのだろうか? 私達が部屋でトランクケースからタオルやら着替えを出している部屋へとやってきて尋ねてきた。

「知らないんですか? 温泉というのは地下の熱で水が温められて温かいお湯が湧き出ている場所の事を言うんですよ?」

こんな説明で合ってるかどうか分からないけど、私はアマゾナに説明した。

「ふ〜ん、そうなのかい? 実はその温泉とやらが湧き出てきたのはつい最近の事なんだよ」

「まあ、そうなんですの?」

ミラージュが準備の手を止めてアマゾナを見た。

「ああ、確かあの頃、ここから離れた場所にある王国が天変地異で滅んだ事件があったんだよ。あのときはびっくりしたね。はるか遠くの空が一部分だけ真っ暗闇に染まっていたのだから。あれを見たときはこの世の終わりかと思ったよ。その直後に大地が激しく揺れてね。建物が倒壊する被害はなんとか免れたけど、それからすぐだよ。あんた達の言う温泉とやらが湧き出てきたんだよ」

「へ〜そうなんですか?」

内心冷や汗をかきながらアマゾナの話に相槌を打った。間違いない。それは私の仕業だ。グランダ国の2人のクズ王子と色ボケ国王にとうとう我慢が出来ずにブチ切れてしまった私が怒りのあまり力を発動してしまってグランダ王国を崩壊させてしまった時の話だ。

それにしても……我ながら自分の力の恐ろしさを知って怖くなった。まさかあんな遠くで起こした天変地異がこんな場所にまで被害を及ぼすとは……。でもある意味、これは良い影響? だったのかもしれない。だって温泉が湧いたのだから!

「レベッカ様、温泉楽しみですね?」

ミラージュはウキウキしている。うん、私もお湯に浸かるなんて久しぶりで楽しみだ。

そんな私達の様子を見ながらアマゾナが笑った。

「そんなに喜んでくれるとは思わなかったね。あんた達には来て早々にモグラ駆除をやってもらえたからね。温泉とやらでもてなす事が出来るようで何よりだ。それじゃ私はバザーの様子を見に行かないと行けないから、悪いけど会場に戻らせてもらうよ。あ、そうそう。その温泉はこの宿屋の裏手にあるからね」

それだけ伝えるとアマゾナは去って行った。



「ミラージュ、私は準備は出来たわ? 貴女はどうかしら?」

風呂敷にタオルと着替え、麻袋に入れた固形石鹸を風呂敷に包むと声をかけた。

「はい、私もばっちりです」

しかし、ミラージュは手ぶらである。

「あら? ミラージュ。貴女は手ぶらじゃないの? お風呂セットは持っていかないの? さっき用意していたじゃない」

「ええ、先程用意はしましたが、考え直しました。温泉についたらドラゴンの姿に戻ります」

「え!?」

「ドラゴンの姿で体を洗えば、今着ているワンピースもキレイになるんですよ? 洗濯物が増えなくていいじゃないですか」

「そうね。言われてみれば確かにそうだわ」

人間に姿を変えられるドラゴンというものは不思議なもので、人の姿の時に来ている服がドラゴンの姿になった時に、何故か自分の肌と服が同化するようなのだ。つまりドラゴンに変身して体を洗えば着ている服もキレイになっていると言う。何とも不思議なものである。

「なのでドラゴンの姿で体をキレイにすれば私には着替えも何も必要無いということなのです」

「ミラージュが羨ましいわ。でも準備が終わっているなら温泉に行きましょう」

「はい、そうですね」

そして私達はアマゾナが教えてくれた温泉を目指した――