ドラゴンの姿になったミラージュに声をかけた。

「ミラージュ、そろそろ下に降りましょう。貴女も人の姿に戻ったほうがいいわよ。これ以上村に近づけばドラゴンの姿を見られて大騒ぎになってしまうかもしれないから」

<はい、確かにおっしゃる通りですね>

ミラージュはバサリと大きな翼をはためかせ、地面に向かって急降下するとふわりと地面に降り立った。

「ご苦労様、ミラージュ」

ミラージュの背中から降りると、すぐに人間の姿に変わる。

「いえ、そんな。やはりドラゴンの姿になると胸がスカッとしますね。これからは度々ドラゴンの姿に戻ってもよろしいでしょうか?」

ウキウキした様子で語るミラージュ。

「いえ、ほどほどにしておいて」

「はい……」

ミラージュはシュンとなってしまった。これは流石にかわいそうかも……。

「聞いて、ミラージュ。私はずっと貴女と一緒にいたいのよ。だけど、もし貴女の正体がドラゴンだとバレてしまって、見世物小屋かサーカスに売られてしまったら私達、離れ離れになってしまうでしょう? だから我慢してくれる? でもその代わり人里離れた場所ならドラゴンの姿に戻ってもいいから」

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」

ミラージュは嬉しそうに笑った。う〜ん……どうやらミラージュは旅に出てから何かが吹っ切れたのか、野生の血が騒ぎ始めたのか、やたらとドラゴンの姿に戻りたがる。
それともグランダ王国で鬱積した精神状態で生活し……それが旅に出たことで開放されたからなのかもしれない。まあ、連れにサミュエル王子が一緒にいるけれども、彼ならば別にドラゴンのミラージュを見てもなんとも思わないので無害だし。

「ところで、レベッカ様。一つ気になることがあったのですけど……」

歩きながらミラージュが重そうに口を開いた。

「何? 何が気になったの?」

「ええ、先程モグラ駆除を行ったじゃありませんか」

「ええ、そうね」

あまり思い出したくない記憶だが返事をした。

「いなかったんですよ」

「え? 何がいなかったの?」

私は首をかしげた。

「あの畑……普通のサイズよりも明らかに大きな山が出来ていたんです。あれはモグラの掘った後で間違いは無いはずなのですが、あのサイズだとかなりの巨体モグラですよ。それにアマゾナさんも言っていたじゃありませんか。巨大化したモグラが無数のモグラを引き連れて害獣被害が発生しているって」

「ええ……言ってたわねえ」

鳥肌を立てながら答える。

「そのモグラたちが一切姿を見せなかったんです。おかしいと思いませんか?」

「そうね、確かにおかしいわ」

「これは何かあるかもしれないですよ……」

ミラージュの意味深な言葉に怯えつつ、私達はアマゾナの待つ『アルト』の村を目指した――



****

「ど、どうしたんだいっ!? あんた達のそのなりは!」

泥だらけで宿屋に戻ってきた私達を見てアマゾナが驚きの声を上げた。

「ええ、ちょっとモグラ駆除で体が土まみれになってしまいました」

照れくさそうに笑う。

「あんた達、すぐに水浴びしといで! この裏手に温かいお湯が湧き出ている不思議な場所があるんだよ」

アマゾナの言葉に私とミラージュは素早く反応した。

「え? お湯が湧き出ているですって?」

「レベッカ様、それはもしや……」

私とミラージュは顔を見合わせた。

「「温泉だわっ!!」」

2人で歓喜の声を上げて大喜びするが、一方のアマゾナはポカンとした顔で私達を見つめていた――