「まあ、モグラですか? モグラなんて可愛いものではありませんか?」

ミラージュは大胆にも巨大な肉の塊をフォークでぶっ刺し、大口を開けて飲み込んだ。その姿はまさに人間版ザ・ドラゴンである。

「何言ってるんだい、モグラをなめちゃいけないよ? どうもある村ではモグラのせいでたった1週間で全ての畑が壊滅状態にされてしまい、滅んでしまったそうだからね」

「ええええっ! 何ですってっ! 何と恐ろしい…‥」

私はナイフとフォークで魚の骨を取り除きながら身震いした。

「フッ……たかがモグラの数十匹。この俺が華麗な剣さばきであっという間に退治してやろうじゃないか」

サミュエル王子はワインをがぶ飲みして、顔が赤らんでいる。あんな状態でまともに剣を振るえるのだろうか? 第一私は今まで一度も彼が剣を振るっている姿を見たことが無い。もっともサミュエル王子の活躍の場を奪っているのは、他ならぬ私とミラージュであるのだけれども……。

「よし、分かりました。アマゾナさん! 貴女は私の為にあのクズ王子を面白い目に遭わせてくれた恩人です。そのモグラ退治、私にお任せ下さい!」

私はドンと胸を叩いた。

「えっ!? 本当にレベッカに任せて大丈夫なのかい?」

「ええ、勿論です!」

「レベッカ様、当然私もモグラ退治参加させて頂きますわ。レベッカ様の行くところは何処へでもお供致します! それでサミュエル王子は……?」

私とミラージュが振り向くと、サミュエル王子はテーブルに突っ伏してワインの瓶を抱えたまま眠りこけていた。

「何て事だい! 彼はたった1人でこのワイン飲んじまったのかいっ!? このワイン、村の酒豪の男衆が作った特製ワインだったんよ。何とアルコール度数30%越えなんだよっ! それを1瓶まるまるまる空けてしまうとは……」

アマゾナは空になったワイン瓶と気持ちよさげに眠っているサミュエル王子を見てため息をついた。

「という事は……?」

「ええ、ですわね……」

私とミラージュは顔を合わせて笑みを浮かべた――

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「ここが、被害に遭った畑なんだよ」

アマゾナの馬車に揺られて連れてこられたのは村はずれにある広大な畑だった。

「まあ! 何て大きな畑なのでしょう! オーランド王国で私は畑番をしておりましたが、こんなに広くありませんでしたわ!」

ミラージュが興奮している。うん、確かに私も驚きだ。あんな小さな村がこれほど広大な畑を所有しているとは思えなかった。なにしろ、左右を見渡しても地平線が見えるのだから。そしてその畑は見るも無残に野菜は枯れ、畑のいたるところで土がこんもりと盛り上がっている。中には高さ1m程の山が出来ている場所もあるが……うん、見なかったことにしよう。

「どうだい? 酷い有様だろ? 耕しても耕してもすぐにモグラにやられてしまうから今じゃ畑を放置してしまってるんだよ。罠を掛けてもちっとも引っかからなくて途方に暮れていたのさ。しかもどうやら魔力と知性を持った巨大モグラが出没したらしく、そのモグラの率いる群れがこの村の畑を襲っているんだよ」

アマゾナがため息をついた。

「ハハハハ……巨大モグラですか……」

はっきりって私はモグラは得意ではない。身体は完全に動物なのに、あのどことなく人間の手を思い起こさせるような形、そしてあのとんがったピンク色の鼻がどうにも我慢できないのだ。手のひらサイズのモグラなら我慢できるかもしれないけれども、巨大モグラが出没した場合、冷静でいられる自信が……はっきり言って無いっ!

「大丈夫かい? レベッカ。顔が青いようだけど……?」

アマゾナが心配そうに尋ねてくる。

「いえいえ! とんでもないっ! あとは私たちで何とかするのでアマゾナさんは一足先に村へ帰っていて下さい。馬車も持って行って大丈夫ですよ?」

「ええ!? 大丈夫なのかい!?」

アマゾナは目を白黒させる。

「はい、何も問題ありませんわ」

頷くミラージュ。

「それじゃ……悪いが任せるよ。本当はあんたたちに付き添ってやりたいんだが、今はバザーの開催期間で忙しくてね……」

「大丈夫です、気にしないで下さい。事が済んだら村に戻るので」

私は笑みを浮た。

「そうかい。それじゃ後はよろしく頼むよ」

その後、アマゾナは馬車に乗り込むとガラガラと音を立てて走り去って行った――