村に入り、私は目を見張った。初めて『アルト』にやってきた時はまともな店は無く、アマゾナの経営している宿屋くらいしか無かったのに、今眼前には多くのテントが立ち並んでいる。

「あのテントは一体何だろうな?」

『レベッカ』号の御者台に乗ったサミュエル王子が不思議そうに首を傾げながら馬を歩かせていた。
色とりどりのテントが広々とした道の左右にズラリと並び、大勢の人々が行き交いしている。テントの中では様々な品物が並べられ商売をしているようだった。

「あの、すみません。今この村では何が行われているのでしょう?」

ミラージュが荷台の上から、通りすがりのおじさんに声をかける。

「ああ、今日はバザーが開催されているんだよ」

「「「バザー?」」」

聞きなれない言葉に首を傾げる私達におじさんが丁寧に説明してくれた。

「この村の村長さんは女性ながらたいそう立派な人でね、この村の近隣には女性達だけで生計を立てている村があるんだよ。その女性たちが作った特産品をこのバザーで売ってあげて、売り上げを全額村に寄付してあげているのさ。毎週開催されていて恒例なんだよ」

「おお~! 流石はアマゾナさん! やっぱり彼女は素晴らしい女性ですね!」

感動した私に首を傾げるおじさん。

「おや? お嬢さんはアマゾナをしっているのかい?」

「はい、友人です」

「え!?」

「そうなのかっ!?」

ミラージュとサミュエル王子が驚いた。

「はい、私の中ではアマゾナは友達ですよ?」

だけど本人はそんな風に思ってくれているだろうか?

「でもバザーなんて面白そうだね。ちょっと馬車を降りて見て回らないかい?」

サミュエル王子が提案してくる。

「いいですね~」

「はい、賛成ですわ」

こうして私達は村はずれに馬車を止めてバザーを見て回ることにした。


****

「まあ……レベッカ様、見て下さい! おいしそうな蜂蜜が売っていますよ!」

甘いもの大好きなミラージュが瓶詰で売られている蜂蜜を見て嬉しそうに声を上げる。

「蜂蜜……蜂蜜を見るとアレックス王子を思い出すわね」

私の言葉にサミュエル王子が素早く反応した。

「な、何だって!? レベッカ。どんな思い出話があるんだいっ!?」

「ええ。実はサミュエル王子の国を訪れた帰り、私はこの村で袋詰めにされて誘拐されたんですよ」

「な、何だってっ!?」

サミュエル王子が素っ頓狂な声を挙げる。

「ま! そんな話初耳ですっ!」

「その時に、アマゾナって女性と知り合ったんですけど、アレックス王子は私の身代金を拒否したんです」

「な、何だって……!? あの馬鹿がっ!!」

「本当にゲス野郎ですね!」

2人の興奮は止らない。

「その時にアマゾナって女性と知り合って、彼女が激怒してくれて皆でお仕置きをする事にしたんです」

「何だってお仕置きだって?」

「どんなお仕置きをしたのですか?」

「ええ。アレックス王子を地面に打ち付けた杭でロープで固定したところに顔に蜂蜜をぶちまけて馬に舐めさせたんですよ。いや~あれは見ものでした。面白かったですね」

あの時の事を思い出せば今も笑いが込み上げてくると、サミュエル王子も笑顔になった。

「何にせよ、あいつをお仕置きできたなら良かったよ」

そこまで話していた時――

「レベッカッ!? もしかしてレベッカじゃないか!?」

懐かしい声が聞こえ、振り向くとそこにはアマゾナが立っていた――