森の動物たちの助けによって、たくさんの果物を持って馬車に戻るとすでにサミュエル王子が焚火でカタルパの村で分けてもらった干し肉を枝に刺してあぶっていた。そしてミラージュもどこかから水を調達してきたのか、傍らに置いてある樽に並々と水が注がれていた。

「あ、もう焚火をしていただいていたんですね? ありがとうございます。サミュエル王子」

籠の中にたくさん果実を持って帰ってくると、サミュエル王子が立ち上がった。

「レ……レベッカ……」

「はい?」

「良かったっ! やっと戻ってきったんだなっ!?」

サミュエル王子は火をかいていた木の棒を放り投げるといきなり私に向かって駆け寄り、ギュウギュウに抱きしめてきた。

キャアアアッ!!

「ど、ど、どうしたんですかっ!? サミュエル王子っ!」

「うう……戻ってくるのが遅いから……どれほど君を心配したことか……!」

サミュエル王子は私の髪に自分の顔をこすりつけ、羞恥で私の顔は赤くなる。

「もう……ですから言ったではありませんか。レベッカ様なら大丈夫だと……」

ミラージュは木の枝をポキンと折り、焚火に放り込む。

「そ、そんな事言ったってレベッカはか弱い女性なんだぞ!? 心配するのは当然じゃないか」

サミュエル王子は私を抱きしめたまま言い返す。王子はまだ私がか弱い女性だと思い込んでいるようだが……さすがにいつまでも抱きしめられるのは恥ずかしい。何しろ私は結婚して離婚まで経験したけれどもまだ乙女なのだから。

「お、落ち着いて下さい、サミュエル王子。私には森の動物たちが一緒だったのですから何かあっても彼らが助けてくれますよ」

その言葉でようやくサミュエル王子は納得したのか、私から身体を離すと尋ねてきた。

「ほ、本当に……?」

「ええ、本当です」

「彼らが……?」

サミュエル王子は私の足元にいる小動物たちに目をやる。そこにはウサギさんやキツネさん、リスにマウスにモモンガがいた。

「とても……彼らがレベッカを守れるとは思えないんだが……痛った~っ!!」

突然サミュエル王子が叫んだ。見ると足をリスに嚙まれている。どうやらリスは自分が馬鹿にされたと思い、サミュエル王子を噛んだのだ。

「ああ……駄目よ、噛んだりしたら。この方は私たちの大切なお友達だから優しくしてあげて?」

するとリスは納得したのかサミュエル王子にかみつくのをやめて私の肩まで登ってきた。

「うう……な、何て凶暴なリスなんだ……それにしても俺の事をお友達なんて……せめて将来の夫と言ってもらいたかった……」

サミュエル王子がぶつぶつ1人言を言っている。本当に私の事を……?
少しだけ胸をドキドキさせながらサミュエル王子を見つめ……。

ぐ~……

派手にお腹が鳴ってしまった。

「大変! レベッカ様の体力が切れてしまうわっ!」

ミラージュは叫ぶと、串にささっていた干し肉を口に突っ込んでくれた。

モグモグ……うん、美味しい。それを見たサミュエル王子は尋ねてきた。

「レベッカ、体力が切れるとどうなるんだい?」

「そうですね……動けなくなります」

真顔で答える。

「え……? アハハハハ……! た、確かにお腹がすくと人は動けなくなるよね? よし、それじゃ皆で食事にしよう!」

そして私たちは焚火を囲んで丸太に座り、ささやかな食事をして森の中で眠る事にした。


****
 
 私とミラージュは荷台の上で寝て、サミュエル王子は地面の上に布を広げて眠っている。私は夜空を見上げながらミラージュに声をかけた。

「ミラージュ。まだ起きてる?」

「はい、起きてますよ」

隣にいるミラージュが返事をする。

「私の旅だけに付き合わせるのは悪いから、貴女の仲間たちが住んでいるドラゴンの国にも行ってみない?」

「え……?」

ミラージュが身体を起こして私を見た。

「会いたいでしょう? お父さんに。それに他の仲間たちにも」

「レベッカ様……でもずっと私はレベッカ様のお傍に……」

「勿論、そうよ。私にはミラージュは必要だもの。でも、一度くらいはお父さんに会いたいんじゃないの?」

「……よろしいのですか?」

「いいのいいの。だって私たちは自由人なんだから」

「ありがとうございます……」

ミラージュが涙ぐんでいるように見えた。

「いいのよ、ミラージュ。もう、寝ましょう?」

「ええ。そうですね……」

こうして森で過ごす夜は更けていく――