ガラガラガラガラ……

森の中を走る馬車。すっかり日も暮れ、辺りは闇につつまれてしまった。

「う~ん困ったな。すっかり夜になってしまったよ。こんな心もとない明かりではこれ以上馬車を走らせるには危険かもしれないなぁ……」

御者台に座っていたサミュエル王子が馬車を止めると困った様子をみせた。

「それならこの辺りで野宿すればいいじゃないですか。寝床はここでいいし」

私はすっかり元通りになった荷台をポンポン叩いた。
この壊れていた荷台……何故元通りになったかというと、答えは簡単。壊れる前に時間を戻したからなのだ。

「俺は野宿でも構わないけど、女性2人には厳しくないかな? この荷台は幌もついていないし、万一雨でも降った場合……」

「それなら大丈夫。今夜は快晴、そしてこの天気は次の目的地に到着するまでずっと継続します!」

自信を持って私は答える。

「へ~すごいじゃないか。レベッカ、君は天気を読むことが出来るのかい?」

「ええ、まぁそんなところですね」

私はサミュエル王子に嘘をついた。本当は天気を読むことなんてできない。ただ私は天候を自由に操ることが出来るだけだ。その気になれば吹雪だって起こすことが出来る。

「しかし、ここは危険な森の中だ。危険な野生動物や魔物が現れたら……」

尚も心配そうなサミュエル王子。すると次にミラージュが自分を指さした。

「サミュエル王子! まさか私の存在をお忘れではないでしょうね?」

「え? いや、まさか! 君のように存在感が強烈な人を忘れるはずないじゃないか!」

「私の正体は何でしたっけ?」

「勿論知ってるよ。偉大な存在のドラゴンだろう?」

「ええ、私はドラゴンです。よいですか? 私より強い生物はドラゴンしかいないのです。いくら野生動物やそこいらの魔物たちが集団で襲ってきても所詮烏合の衆! 私にかなうはず無いではありませんか。第一野生に生きる生物たちは人にはない生存本能を持ち合わせています。皆私の存在に怯えて身を隠しておりますよ」

ミラージュは自慢げに言う。しかし、それは紛れもない事実だ。ミラージュと一緒にいて今まで危険な野生動物や魔物に出くわしたことなど一度も無い。

「そうか……君たち2人は本当にすごいね~。こうなったら俺も足手まといにならないように頑張らなくちゃな。よし。なら今夜はここで野宿しよう。俺が寝ずの番をするよ」

サミュエル王子は張り切っているが……。

「いいえ、サミュエル王子。そんな事しなくても大丈夫ですよ」

そこで私は再び森の動物たちを集めるべく、口笛を吹いた。

ピ~ッ!
ピ~ッ!

「え……? あ、まさか……その口笛は……!」

サミュエル王子の言葉が言い終わる前に……。


ドドドドドドドド……ッ!

ものすごい地響きが起こり、辺りが激しく揺れ出した。そして――

「ウワアアアアッ!」

サミュエル王子が驚愕の悲鳴を上げる。まぁ驚くのは無理も無いかもしれない。馬車の周りを大小様々な野生動物が取り囲んでいたからだ。

「そうねえ……貴方たちにはこの馬車の見張りをしてもらおうかしら?」

この中で一番大きくて頼りになる野生動物の熊2頭に見張りを命じると、熊たちは頷いた。後は……。

「ねえ、2人はここにいて。私は何か食べ物を探してくるわ」

すると間髪入れずサミュエル王子が反対した。

「な、何だってっ!? 駄目だ、レベッカ! 危険すぎるっ!」

「大丈夫ですってば。この子たちに案内してもらうし、この森の動物たちはもうみんな私の友達ですから」

私は自分の肩の上によじ登ってきたリスをなでた。

「へ……?」

サミュエル王子はポカンとした目で私を見たが……やがて笑い出した。

「ほんとに君たちといると飽きないな……それじゃ食べ物探しは任せようかな? 俺は薪を集めて焚火をするよ」

「私は水を探してきますね」

ミラージュは荷台に有ったからっぽの樽を抱えた。

「では、皆後ほどここに集合という事で」

私の言葉に2人は頷く。


「さて、しゅっぱーつ!」

私は森の小動物たちをゾロゾロ引き連れてカンテラを灯すと夜の森を歩き始めた――