バサッ! バサッ!

大きな翼を広げて空を嬉しそうに飛ぶミラージュ。余程元の大きさのドラゴンの姿になって空を飛ぶのが嬉しいのだろう。先ほどから大きな尻尾をブンブン振り回している。

<あ! レベッカ様! 森ですっ! 森が見えてきましたね!>

私たちの眼下に大きく広がる森が見えてきた。しかし、かなり高度の高い位置を飛んでいるので、森はまるでブロッコリーのように見えてしまう。森がブロッコリーに見えてしまうなんて……私ってば余程お腹が空いているのかもしれない。
そして確かにブロッコリーの森の奥には草原が見える。

「そうね……きっとその森に魔物が潜んでいるに違いないわ。どう? ミラージュ。魔物の気配は感じる?」

<そうですね……もう少し高度を下げて飛んでみないと微妙ですね>

「なら、高度を下げて頂戴」

<はい! 了解ですっ!>

ミラージュは高度一気にぐんと下げ、森の上空スレスレを飛び始め……。

<分かりましたっ! 見つけましたよ! レベッカ様っ!>

頭の中に興奮気味に語りかけてきた。

「本当なのね!?」

<ええ! 間違いありませんっ! このまま魔物の元へ向かいますっ!>

そしてミラージュはスピードを上げた。

<レベッカ様。そろそろ魔物のいる上空へ来ます。まずは森の木々を超音波で吹っ飛ばしてもよろしいでしょうか? このままドラゴンの姿では森に降りるのが困難なので>

超音波で森の木々をフッ飛ばせば大変な事になるのは目に見えて分かっていた。それだけではない。魔物もフッ飛ばされてしまうかもしれないけれども、それはそれで結果オーライかもれない。

「いいわ、ミラージュ。私が許すわ。好きなだけやって頂戴!」

<はい! 分かりましたっ!>

ミラージュは大きな口をガパッと開けると、誰も逃れることが出来ない必殺技、『超音波』を口からぶっ放した。

キイイイイーンッ!!

ミラージュの放った超音波は空気を震わせる。

ゴゴゴゴゴ……
メキメキメキ……

地面にひび割れが走り、木の根元がメリメリと地面から引き剥がされていく。そしてついに空中にふわりと浮き、次から次へと吹っ飛んでいく。
いやはや、その凄まじさときたら……。どんどんなぎ倒されていく木々を私たちは茫然と見下ろしていた。

<レベッカ様……どうしましょう……私はまたしても力の加減を間違えてしまいました……>

やがて辺りは静まり返り、ミラージュの放った超音波の中心部から円形に綺麗になぎ倒された木々が辺り一面に転がっている状況を見てミラージュはぽつりと頭の中に語り掛けてきた。

「いいのよ、ミラージュ。貴女はよくやったわ。忘れちゃった? この『カタルパ』ではね、木こりを生業としている人が多いのよ。つまり、貴女が木々をなぎ倒してくれたおかげで、彼らは木を切り倒す手間がはぶけたのだから、良かったじゃない」

<レベッカ様……>

「さて、地面もすっきりしたし、下に降りて魔物を探してみない?」

<ええ。そうですね>




****

魔物はすぐに見つかった。

「「……」」

2人で木の下敷きになっている巨大な花の植物を無言で見下ろした。その背丈は私たちの2倍はありそうな大きさで、真っ赤な花びらは何とも言えず不気味さを醸し出している。
そして何より一番不気味だったのは蕾の部分に巨大な牙が生えた口がついていたことだ。色が赤でなければ何とくヒマワリを連想させる植物型の魔物。ミラージュの超音波でフッ飛ばした木の下敷きになって、あっけなく昇天していたのだった。


「ミラージュ……」

「はい、レベッカ様」

「私……当分ヒマワリを見るのが嫌になりそうだわ……」

「ええ、おっしゃる通りです。私も当分ヒマワリはお断りです」


だけど、これでカタルパの村の魔物の恐怖から彼らは救われたはずだ。この魔物によって、おかしくされた香辛料が元に戻るかどうかは不明だけど……きっとこれから作る香辛料は問題ないだろう。

「さて、ミラージュ。それじゃ戻りましょうか?」

「ええ、戻りましょう」

私は再びドラゴンになったミラージュの背中に乗って『カタルパ』の村へ戻った――