「な……何だろうな……この味」

サミュエル王子が首を傾げる。

「ええ……何だか随分独特な味付けですわね」

ミラージュも微妙な顔つきをする。

「……」

私も料理を口にして思った。一体この味は何なのだろうと。料理の見た目は以前と同じで全く遜色はないのだが……。問題なのはこの味だ。つまり……。

「そう、味よ! この料理には……まさに食材の味しかしないのよっ!」

思わず大声で叫んでしまった。するとサミュエル王子。

「レベッカ。今俺もそれを考えていたんだ。ほら見てごらん、このお肉を。ナイフを切って入れたところから、ジュウジュウと旨そうな肉汁があふれてきているのに、味が全くないんだよ。肉汁の溢れる無味の肉がこんなに味気ないものだなんて知らなかった。初めての経験だよ」

サミュエル王子は何故か興奮気味に早口で一気にまくしたてた。

「そうですねえ……。私の方も同じですわ。でもサミュエル王子の食べたお肉よりはまともかもしれませんね。人参と玉ねぎ、それにキャベツの微かな甘みと牛乳の味でほんのわずかですがまろやかな味付けになっておりますから」

一方のミラージュはまるでグルメ評論家のような料理についての論表を述べている。

「おかしい、絶対におかしいわ。だって以前ここに食事に来た時にはこんな味ではなかったもの。すっごく美味しかったもの!」

このままでは2人から私が味覚障害だと思われてしまうかもしれない。

「おかみさん……おかみさんに話を聞いてくるわっ!」

ガタンと席を立って厨房へ向かおうとしたとき。

――ガランガラン

大きな音を立て入り口のドアが開けられた。そして先ほど村の外でタムロしていたマッチョな男たちがゾロゾロと店内へ入ってきたのだ。全員腰に剣をさしている。そしてその目は……。

「な、なんて血走った目をしたチンピラ達……まさかこの店の料理が激マズだから殴り込みを!?」

「おいっ! そこの女っ! 心の声が駄々洩れだぞっ!」

先頭に立っていた頭がつるっぱげでピッチピチのシャツとズボンをはいた男が私を見て怒鳴りつけてきた。

「す、すごい……見事なハゲっぷり……頭がピカピカだわ……。まるで鏡のようね……」

「おい! 誰が鏡だ! ふざけるな女っ!」

するとサミュエル王子が立ち上がった。

「仕方がないだろう。事実を述べただけなのだから。我々は自分の心に嘘はつけないからな」

「ええ、そうですよ。ハゲをハゲと言って何が悪いんですの? それよりあまりこちらを向かないでください。先ほどから頭が窓から差し込む太陽の光に反射してピカピカ光って眩しいんですよ」

ミラージュも強烈な事を言う。

「お、おい……き、貴様ら……よくも言いたいことばかり言ってくれるなっ!?」

男の仲間たちも殺気を込めた目で、腰に構えた剣に触れようとしているが……その背後では数人の男たちが笑いをこらえているのか、奇妙な顔をして身体を小刻みに震わせている。

「まあまあ、そんなに怒らないで……怒るとゆでダコみたいになりますよ?」

そこまで言って私は慌て口を押えた。おかしい、いくら何でもこんなに思った事を口走ってしまうなんて……私達らしくないっ!

「こらああっ! 誰がゆでだこだあっ!! 者どもっ! やるぞっ!」

「面白い……かかってこい。丁度クソまずい料理を食べさせられてイライラしていたところなんだ!」

サミュエル王子が腰から剣を引き抜いた!

「そうですねえ……私もこんな素朴な味付けの料理を食べて不愉快だったのでひと暴れしたかったんですよ!」

大変だ! サミュエル王子とミラージュの人格が崩壊している!
こ、これは一体……!?

その時――

「待ってくださいっ!!」

大きな声と共に、厨房からおかみさんが飛び出してきた――