「ミラージューッ! そろそろ降りて来てーっ!」

空を飛んでいるミラージュに向かって大きな声で呼びかけると、翼をパタパタ言わせてミラージュが私の方へ向かって降りてきた。

「ミラージュッ! ほら、私の手の平に降りて来てくれる?」

ワクワクしながら私は右手を開いた。

<は? はあ……>

ミラージュは不思議そうに首を傾げるも、広げた右手の上にチョコンと乗った。

<レベッカ様。これでよろしいでしょうか?>

そして首を傾げてくる。

「か……」

<か?>

「可愛い~っ!! なんって可愛いのっ!!」

<え? え?>

戸惑うミラージュをよそに、私は小鳥のようにすっかり小さくなったミラージュをすっぽりおおうと、なでなでした。

<レ、レベッカ様!? い、一体何を……!?>

戸惑うミラージュをよそに、私の興奮はとまらない。

「私ね……一度でいいから『手乗りドラゴン』をやってみたかったのよ!」

「え……ええええ~っ!!」

ミラージュとサミュエル王子の声が大空に響き渡った――


****

ガラガラガラガラ……

3人で狭い御者台に乗りながら『カタルパ』の村の中を進んでいるが、どうにも前回訪れた時よりも村全体が寂れたイメージがある。村の中を行く人々の顔は活気がないし、中には暇そうに家の軒下で斧を整備する村人たちがいる。中でも気になったのは……。

「何だか随分目つきの悪い男たちがいるな……?」

サミュエル王子が警戒心あらわに、村の端々でタムロしている男たちを見ながら小声で言う。彼らはまるで傭兵のようにも見えた。全員いわゆるマッチョ男で、顔や身体……いたるところに刀傷が出来たりしている。

「変ですねぇ……以前この村を訪れた時はまさに平凡、平和そのもので、金ぴかの馬車に眠っているアレックス王子を置き去りにしても何事も無かったのですよ?」

「まあ! そんなことをなさったのですねっ!?」

手乗りドラゴンから人の姿に戻ったミラージュが目をキラキラさせて嬉しそうに笑う。

「ええ、そうだったのよ。それでアレックス王子が自らチェックしたグルメ雑誌に載っていたこの村の名物料理<森の木こりの料理>を食べる事が出来なくて暫く嫌味を言われてしまったのよ」

「そうですか……アホ王子のくせに生意気な」

もはや名前を呼ぶことにすら嫌悪感を抱いている様子のミラージュ。

「アレックスは女とグルメに目がないからね。時には性欲を食欲で満たすぐらいだから」

なんと! 女2人の前でさらりとものすごい事を言ってのけるサミュエル王子。うん、彼も相当アレックス王子を毛嫌いしているのだろう。

「それにしても様子がおかしいな……。この村は平凡極まりない村で治安も良かったはずなんだがな……」

さすがサミュエル王子は近隣諸国にまで目が行き届いている。実に惜しい……長男だったら問題なく、王位を継げたただろうに、あっさり王族の身分を手放して、もはや流浪の民と化した私とミラージュについてくるのだから。

「何かあったのでしょうか? 私の野生のドラゴンの血が、うずいていますよ」

ワクワクした様子のミラージュに私は一抹の不安を感じた。

やはり、この村に何か異変が起きているのだ。

そしてきっと私たちは問題を解決させる為に巻き込まれるに違いないと――