ガラガラガラガラ……

馬車は走り続け、ついに森を抜けて広々とした大地が広がる草原に出た。空は澄み渡るような青空に、綿のような雲がプカプカ浮いている。

「あ~なんって綺麗な青空なのでしょう……! こんな大空を自由に飛べたら……」

ミラージュは私とサミュエル王子を交互に見る。

「ミラージュ、そんなに空を飛びたいの?」

「え? ええ……それはまあ……ドラゴンの本能というか……ほら、久々に開放的な気分になれたので、ちょっと空を飛びたいな〜なんて……」

ミラージュの気持ちも分からないではないが、何せあの巨大なドラゴンの姿。あんな姿で空を飛ぼうものなら、地平線が見えるようなこの場所では速攻見つかってしまうに決まっている。

「でもね……ミラージュ……」

すると御者台のサミュエル王子が話しかけてきた。

「ミラージュ、君はドラゴンの姿の大きさを変える事は出来ないのかい?」

「「へ?」」

私とミラージュの声がハモった。

「ほら、もしドラゴンの姿を鳥位の大きさに変える事が出来ればドラゴンだとばれることは無いじゃないか?」

「なるほど……その手がありましたねっ!」

ミラージュはポンと手を打った。

「どう? やれそう? ミラージュ」

「分かりませんが……レベッカ様! 頑張りますっ!」

ミラージュは目をつぶり神経を集中させる。サミュエル王子もミラージュを集中させる為か、馬車を止めた。
やがて、ミラージュの身体が徐々にドラゴンの姿へ変化していき、その身体が巨大化していく……え? 巨大化!?

ググググ……

ぐんぐんドラゴンの身体が大きくなっていき、荷台がメキメキいい始め、馬はヒヒンといななき、怯えはじめた。

「キャアッ!! ミ、ミラージュッ! 落ちついて! 大きくなってるわよっ!」

「そうだ! 落ち着くんだ、ミラージュッ!!」

落ち着かない私とサミュエル王子が叫んでもあまり説得力がないかもしれないと思ったが、何とこの言葉に効果があったのか、徐々にミラージュの身体が小さくなっていく。そして……。

「「おお~っ!すごいっ!!」」

私とサミュエル王子は小さくなったミラージュを見て拍手をした。何とミラージュは手の平サイズまで小さくなれたのだ。その姿は……何かに似ているが、その何かを思い出せなかった。

<どうですか? レベッカ様、サミュエル王子>

ミラージュが頭の中に語り掛けてきた。

「うん、いいんじゃない? 上出来よ」

「そうだね。このくらいの大きさなら誰もドラゴンとは思わないよ」

<そうですか!? では、さっそく飛んできますっ! レベッカ様たちはそのまま馬車で行ってくださいっ!>

そして、ミラージュはパタパタと翼を広げて飛んで行った。

「よし、それじゃ出発しようか?」

「ええ、そうですね」

先ほどのミラージュの巨大化のせいで、荷台がかなり壊れてしまったので私は御者を務めるサミュエル王子の隣に座った。

「はいよっ!」

サミュエル王子の手綱さばきで、再び馬は走り始めた。

「ところでさ……レベッカ」

不意にサミュエル王子が話しかけてきた。

「はい、何ですか?」

「さっきのミラージュの姿、トカゲみたいで可愛かったね」

「トカゲ……! あ、そうですっ! トカゲッ! トカゲに似ていたんですよっ!」

そうだ。ドラゴンのミラージュが小さくなると、トカゲのように見えるのだ。

「おかげですっきしりしましたよ。サミュエル王子」

「そうかい? なら良かったけど……。あ! あそこに集落が見えるぞ! ひょっとするとあれが?」

突然サミュエル王子が前方に見えてきた集落を指さした。

「ええ、あれが『カタルパ』ですっ!」

ようやく私たちは最初の目的地に辿り着いた――