「とにかく、か弱い女性2人が乗った馬車を弓矢で襲って停車させるとはとんでもない山賊たちだ」

サミュエル王子は荷台に乗ったまま剣を構えている。いえ……私とミラージュに関してはか弱いとは言い難いけれども、ミラージュが黙っているのでここは私も黙ることにした。

「おうおう。女の前だからって、いきがってるんじゃねえぞ?」

ボス? は腕組みしながらニヤニヤしている。しかし、背後では何やら異変が起き始めていた。彼の背後にいた男たち数人が何やら私の方を見てヒソヒソ話している。

「おい、あの女、まさか……」
「ああ。似てる……いや、そっくりだ……」
「ハハハ……ひ、人違いだろう……?」
「いや、あの金の髪に緑の瞳は間違いない……」

あの口ぶり……ひょっとして彼らは私を知っているのだろうか? 何やら随分私を見る目が怯えている気がする。するとボス? が彼らを振り向いた。

「おい! うるせえぞ、てめえらっ! 一体どうしたんだよっ!」

すると1人の男がびくびくしながら発言した。

「や、やめときましょうよ……ボス」

あ、やっぱりボスだったんだ。

「何だって言うんだ? 言ってみろよ?」

するとボスの言葉に応えず、手下の1人が私を指さした。

「お、おいっ! お前……ア、アマゾナを知ってるか!?」

人に指をさすとは失礼な……。

「ええ。知ってるわ。何故なら私達はこれから彼女のいる村を訪ねる予定なのだからっ!」

私は腰に腕を当て、御者台から立ち上がった。

「な、何だってっ!? アマゾナだってっ!?」

するとボスが急に怯えた声を出す。一方のミラージュとサミュエル王子は黙って私と山賊たちのやり取りを見守っている。

「そう……。やっぱり貴方達はアマゾナの手下なのね。でも変ね? アマゾナはもう旅人を襲う事はやめるって言っていたのに……。まさか、アマゾナに黙ってこんな事してるの?」

「ち、違うっ! お、俺達は……あの女に追放されたんだよっ!」

追放された身分で偉そうな態度を取るボス。

「ああ……そ、そうだよ! あの女……義賊みたいなマネしやがって。前から気に入らなかったんだよ! それで誰がボスにふさわしいか……決闘を申し込んだら……」

徐々にボスの声が小さくなっていく。

「つまり、お前は女に負けたと言う事だな?」

今まで事の成り行きを見守っていたサミュエル王子が尋ねる。

「ぐはっ!」

図星なのか。ボスは大げさに胸を押さえて喚く。

「私はね、アマゾナに村に遊びに来るように言われていたの。いわば客人よ。その私たちの馬車を襲うなんて……」

「随分いい度胸をしておりますねえ? レベッカ様の馬車を襲うとは……」

私の言葉の後にミラージュが続く。

「……やるかい?レベッカ?」

サミュエル王子が剣を構えながら私に尋ねる。……いつの間にかこのメンバーで私がボスの様になっていた。

「そうねえ……でも……」

私はジロリと彼らを見ると、全員の肩がビクリと跳ねた。あの怯えよう……彼らは皆この私の恐ろしさを知っているのだろう。

「このまま立ち去れば、見逃してあげるけど。もしまだやる気なら相手になるわよ?」

「う……うるせえっ! お前ら……かかれっ!」

ボスは私の忠告にも関わらず、襲い掛かって来た。それに渋々付き従う他のごろつき共。中には余程いやいや命令に従っているのだろうか。

「いやだーっ! 死にたくないーっ!!」

等と叫びながら剣を構えて襲ってくるごろつきもいる。

「ミラージュッ!!」

私は叫んだ。

「はい、レベッカ様! サミュエル王子! 耳を塞いでくださいっ!」

「え? わ、分った!」

サミュエル王子は剣を荷台の上に投げ落とすと耳を両手でふさいだ。

キイイイイイインッ!!

ミラージュは大きく口を開けて、ドラゴンの必殺技『超音波』を発動した。

途端に吹っ飛ぶ山賊たち。木々はめきめきと地面から離れ、なぎ倒される。
そして辺りが静まった時には私達の周囲の木々は全部根元から倒れていた。

「ほ~流石はミラージュだね」

身体を起こしたサミュエル王子は感心している。

「ええ、どんなものです?」

ミラージュは身体をそらして得意気だ。

「さて、では行きましょうか?」

しかし、その時私達は気付いてしまった。

私達の馬が2頭とも気を失って地面に倒れていると言う事に――