私が天変地異を引き起こし、早いもので7年の歳月が流れた。
あの日以来私は怒ることをやめた。自分が本気で怒ればとんでもないことが起こるのだという事を身をもって体験したからだ。そして処世術を身に着けた。いつもへらへらと笑っていれば周囲から馬鹿な娘だと思われ、あまり相手にされなくなるという術を……。

どうせ国王である父は私に令嬢の教育を一切してくれない人間だったのだから馬鹿に思われようが、もうどうでも良かったのだ。


 オーランド王国は貧しい国。
父の言葉は真実だった。あの後城を復興するのにお金が無かったので城に住む人々はおろか、城下町に暮らす人々の生活も散々たるものだった。
そこで私が力を使い、オーランド王国の山で鉱石が取れるようにした。そのおかげで今ではすっかり復興し、さらには以前に比べれば国は豊かになったのだ。
何しろ、この国には私がいる。天候は常に穏やかで、漁に出ればそこそこ魚を取れる。畑を耕してもそこそこ野菜が取れ、山に入れば鉱石が大量に埋まっており……そこそこ採掘する事が出来る。

しかし、何故そこそこかというと……それには深い理由があった――



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「はぁ~全く相変わらずこの国の人たちはレベッカ様に対する扱いが酷いですねっ!」

畑で鍬を振るっているミラージュがプンプン怒っている。

「どうしたの? ミラージュ。随分機嫌が悪そうね?」

私は肥料をまきながらミラージュを見た。

「ええ。そうですよ! 私たちがお金稼ぎに鉱石を売りに行っても、貧乏人にはこれくらいでちょうどいいと言って、相場の半値以下で買い取るし、野菜や果物を買いに行ってもまともな値段で売ってくれない。挙句に私たちを城に勝手に住んでいる物乞いだとおもってるんですからっ!」

「ええ、確かにそうね。でもこんなみすぼらしい姿じゃそう思われても仕方無いかもね」

私はつぎはぎだらけの自分が着ている服を見。
少しは裕福になれたのに、相変わらず私とミラージュに対する扱いは酷いものだった。食べ物は粗末だし、服だって与えてくれない。せめてメイド並みの扱いをしてほしいのに、それすら許されない。下働き扱いなのだ。だから私とミラージュは事あるごとに機嫌の悪いメイドたちに当たられた。仮にも私はこの国の王女であり、ミラージュは偉大な神獣、ドラゴンだというのに。

「もっともっとこの国の人たちが私を尊重してくれれば、この力を発揮できるのに……」

私は自分の手をじっと見つめた。

 私の持つ万物を操ることのできるこの力はとても不思議だ。人々が私を大切に思う力が強ければ強い程、自分の中に眠る『神力』が強くなる。しかし、私という存在を否定されればされる程に『神力』が弱まってしまうのだ。本当ならもっとこの国を豊かにしてあげたいのに、どうも私はオーランド国の人々からは嫌われてるらしい。

「あ~あ……どこかの国で私の事を必要だと思ってくれる人物が現れればいいのに。そしたら私は一生懸命その国の為に尽くすのだけどね~」

すると、それを聞いていたミラージュ。

「勿論、その時は私もついていきますからね!?」

「ええ、勿論よ。ミラージュ、私たちはどこへ行くときも必ず一緒よ」

「はい、レベッカ様っ!」


 
 そして、それから半月後――

グランダ王国への輿入れが決まった。
この国こそ、私を必要としてくれているのだと喜んだのもつかの間。


「いいか、よく聞け。お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。今の言葉を胸に刻み込んでおけっ!」

夫となるべく相手は私にこう、言ってのけたのだから――



 クズ王子たちにクズ国王。
彼らのあまりのクズっぷりにとうとう怒りを抑えられなくなった私はついに10年ぶりに天変地異を引き起こし、グランダ王国を滅ぼしてしまった――


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ガラガラガラガラ……

ガタガタ走る荷台の上で私は目が覚めた。

「う~ん……」

荷台の上で伸びをして、夢を見ていたことに気づいた。御者台を見るとミラージュとサミュエル王子が仲良さげに話をしている。良かった……あの2人、仲良くやっていけそうだ。

するとサミュエル王子が私を振り向き、声をかけてきた。

「やあ、目が覚めたかい、レベッカ」

「はい、お早うございます。サミュエル王子。そして……ミラージュ」


私は2人に挨拶し、笑顔を浮かべた――


<完>