「なるほど……それでお母様は1人外界に降りたのですね?」

ようやくミラージュは落ち着きを取り戻したのか、紅茶を一口飲むとため息をついた。

「それにしても驚いたな……まさかヘレンが迷って『エデンの楽園』に辿り着くとは。おまけにあの偉大なる神々の血を受け継ぐお方を連れてくるとは」

ミラージュパパはクッキーをつまみながらチラリと私を見た。

「あ? やっぱり私が誰か分かります?」

ミラージュパパに尋ねた。

「当然ではありませんかっ! ただ座っておられるだけなのに、その偉大なる力に圧倒されております! まさかこの目で『エデンの楽園』の民に会えるとは思いませんでした!」

「へ〜私ってそんなに凄い人材なんですか?」

何だか偉大なドラゴンに讃えられると悪い気はしない。

「ええ、そしてそんなレベッカ様にお仕え出来る私は世界一の幸せ者ですわ。私はこれからも、レベッカ様の行くところは何処へでもついて参ります」

ミラージュは鼻高々に言う。

「え? ミラージュ。まさかこの国を去るのかい? ずっと私達と暮らしていくんじゃないのか? その為にここまでやってきてくれたのだろう?」

ミラージュパパはおっきな目をウルウルさせて、ミラージュの袖を握りしめている。いやはや、その可愛らしいことと言ったら……まるで置いてけぼりをされそうな子供のようである。

「うむ、そうだな。20年ぶりの孫との対面なのだし。ここで我らと共に暮らしていこうじゃないか」

長老様はいつのまにか、お茶からお酒に飲み物が変わっている。しかもあろう事か、ナージャさんまで一緒になってお酒を飲んでいる。
どうりで静かだったはずだ。

けれど2人の言うことは尤もなのかもしれない。
ここはミラージュの故郷、そしてお祖父様もお父様もいる。何より、ここはドラゴンだけの国だから、窮屈な人の姿をしている必要も……ってそれはないか。だってみんな人の姿をしているものね。

「ミラージュ、どうする? お父様や長老様はああ言っているけれども……」

本当はミラージュと離れたくない。
すると……。

「はぁああああっ!? おふたりとも、何を言っているのですかっ!? 私が情を感じているのはレイラ様とレベッカ様だけですわっ!はっきり申し上げて、お祖父様もお父様も私にとっては他人にしか感じられません! よって、私はこの国に残るつもりは毛頭ありません! 私の居場所はレベッカ様の隣と決めているのですからっ!」

ミラージュは一気にまくし立てた。

「なんとっ! それは真かっ!?」

「そんなぁ!ミラージュッ!」

長老様とミラージュパパは情けない声をあげる。

「そんなことよりもお祖父様っ!」

ミラージュはキッと長老様を睨みつける。

「な、なんじゃ? 我が孫娘よ」

「確かここから外界の様子が見えるとおっしゃいましたよね? ではレイラ様の居場所が分かるのではありませんかっ!?」

すると長老様は申し訳なさそうな顔をする。

「それが……すまん。我らよりも力の強い方には『千里眼』が通用しないのだよ。ただの人間たちの様子なら見ることが出来るのだが……」

私はその言葉に反応した。

「本当ですかっ!? 実は私、追われている身なのですっ! 彼等の様子を見たいのですけど出来ますか?」

勿論私が知りたいのはお父様達と、元アホ夫達の事だ。

「ああ、それならお安い御用だ。ではまず、一番強い思念を感じる者から様子をみてみることにしようか?」

長老様はパチンと指を鳴らすと、突然目の前に1枚の大きな絵画のような物が出現し……。

「「アレックス王子っ!?」」

「え? あれがレベッカ様の元・クズ旦那ですか!?」

ナージャさんが声を上げる。

そう、そこに写し出された姿は、あのアホ王子の姿だった――


<終> ……そして続く