「あ……お姉さま……御機嫌よう……」

俯き加減に挨拶し、足早に歩き去ろうとした矢先。突然お姉さまの足が伸びて来て私はそれに躓いて転んでしまった。

ドテッ!

チャリーンッ!

転んだ拍子にお母様が唯一残してくれたロケットが首から外れて石だたみの上に落ちてしまった。

「あら? これは何かしら?」

お姉さまは石畳の上に落ちたロケットを拾い上げ……パカッと中身を開いた。ロケットの中身は生まれたばかりの私を抱いたお母様のセピア色の写真が入っている。

「ふ~ん……。これがお前の母親ね?」

「返して下さいっ!」

私は必死でお姉さまからロケットを返してもらおうとピョンピョン飛び跳ねるが、背の低い私には高々と上げたお姉さまの右腕に握りしめられたロケットに届かない。

「全く、私達のお母様を追い出して図々しくも城に入り込んできた分際で忌々しい……」

2番目のお姉さまは私の事を一番嫌い、意地悪をして来る。ギロリと睨み付けるお姉さま。一体、私はこれからどんな目に遭わされるのだろうか……?
すると何を思ったかお姉さまがニヤリと笑った。

「ああ……そう言えばあんたの母親の形見って……このロケットしかなかったんだっけ?」

お母様と私をつなぐ唯一のロケットをまるでおもちゃの様にブンブン振り回していたのだが……突然大きく振りかぶり……。

ヒュッ!

なんといきなり近くにある大きな池の中に向かってロケットを投げ捨てたのだ。

「ああっ! わ、私のロケットがっ!」

ロケットはキラリと光りながら、綺麗な放物線を描き池の中にポチャンと落ちてしまった。

「キャアアアッ! お母様の大切なロケットがぁっ!」

思わず絶叫してしまった。そして急いで池に駆け寄るが、この池は深くて広い。とてもではないが、探すことなど不可能だ。

「ひ……酷い……」

池のふちに座り込むと、お姉さまは高らかに笑った。

「アーハッハッハッ! ざまあないわねっレベッカッ! 大体あんたは生意気なのよ。どんなに意地悪しても絶対泣かないし、私達に媚びを売ることもしない……可愛くないわっ!」

そんなくっだらない理由で今まで私に嫌がらせをしてきたのだろうか? ただでさえ、このお姉さまには貧しい食事に泥を混ぜたりして食べられないようにされたり、他にも様々な嫌がらせを繰り返されてきた。
お陰で私は町に行けば他の10歳の子供達よりも圧倒的に体格差がある。まだミラージュと2人で森の中で暮らしていた時の方が今よりずっと幸せだった。
大体私は一応仮にも、この国の王女だ。なのにつぎはぎだらけのワンピースを着させられているなんて……。町に住んでいる子供たちの方が余程ましな服を着ている。だから私は町でも虐められていた。
誰もが私が王女であることを信じてくれない。

それでも私は我慢していた。何故なら私は自分の秘めたる力を知っているから。怒りで感情をコントロールできなければ、どんな悪影響を及ぼすか見当もつかなかった。
ミラージュに出来れば怒りを抑えて欲しいと言われていたけれども……もう駄目、限界だった。

「よ……よくも私の大事なロケットを……」

自分の身体が熱くなるのを感じた。そして身体に籠った熱が外へ飛び出し、次から次へと輝く光が地面に吸い込まれていく。そして激しく揺れ出した大地に黒い雲が空に集まって来る――

「キャアアッ! い、一体何なのよっ!」

お姉さまは突然激しく揺れる大地に雷が鳴りだした空に怯え、悲鳴を上げた。

「水よっ! 私のロケットを戻して頂戴っ!」

池の方に向かって叫ぶと水が突然渦を巻いて空中に向って吸い込まれていく。そしてその中に大切なロケットがこちらへ向かって飛んでくるのを見た。

「私のロケット!」

空中でそれをキャッチすると、ミラージュが激しく揺れる大地の中私に向かって駆けてくるのが目に入った。

「レベッカ様ッ!」

「ミラージュッ!」


相変わらず激しく揺れる大地、強い風が吹き荒れ、私に意地悪したお姉さまは何処かへ飛ばされたのか姿が見えない。

「レベッカ様! これは一体何事ですかっ!?」

「ごめんなさいミラージュ……私……頭に来て……つい……」

そして力を使い過ぎて私は眠りに就いてしまった――



そう、あのとき私が天変地異を始めて引き起こしてしまった。

私が目覚めたのは3時間後だったらしいが……目を覚ました時には城は崩れ落ち、大地はひび割れ……木々がなぎ倒されて最悪な状態になっていたのだった――