「はーっ……はーっ……」

10Kgのリュックサックを背負い、無事に屋上まで階段を登り切ったナージャさん。
そして今、彼女は偉大なるドラゴンである長老様の眼下で両手両足を広げて息も絶え絶えに地べたに寝っ転がっている。

「ナージャさん……大丈夫ですか?」

ナージャさんのそばにうずくまると私は様子を尋ねてみた。

「は、はい……。大丈夫です……わ、私はまだ生きていますよ……はーっ……はーっ……」

荒い息を吐きながら会話するナージャさん。

う~ん……本当に苦しそうだ。

「お、お恥ずかしい限りです……。登山は慣れているし、標高の高い場所で酸素の薄い場所でも……な、慣れているはずなのですが……さ、流石にここは……た、高過ぎですね……」

すると、今まで黙ってナージャさんの様子を見ていた長老さんが口を開いた。

「おおっ! なるほど……やはり、そういう訳だったのか!」

そしてポンと手を叩く。

「え? 長老様?」

「おじい様、どうかされのですか?」

ミラージュは既に長老様の事を『おじい様』と呼んでいる。流石はミラージュ。物怖じしない所が彼女の魅力だ。

「いや、何故この人物が『ドラゴン王国』へ来ることが出来たのか、合点がいったのだよ」

「え? 今分かったのですか?」

一体どう言う事だろう?

今のナージャさんは無様な姿で、あろうことかドラゴンのいわゆる王様的存在の人の前で両手両足を広げて寝そべっているだけなのに?
占いをしている時の神秘的なナージャさんの姿はどこにもない。

「ええ、そうです。普通の人間であればまずここに来ることが出来なかったでしょう。しかし……今、ここに寝そべっている者は違うっ!」

長老様は床に寝そべったナージャさんをビシィッと指さし、言い切った。
一体長老様はナージャさんの何を見て、この『ドラゴン王国』に来ることが出来たのだろうか?
私とミラージュ、そして寝そべったままのナージャさんは長老の言葉をじっと待つ。

「つまり、高山病にならない事が選ばれる条件だったのだ! この島は山の高さをも遥かに超える。普通の人間であれば、空気が薄すぎて高山病にかかってしまうからなのだっ!」

「おおっ! 成程! そういう事だったのですね!」

何と言う事だろう。確かに言われてみればその通りだ。

「まぁっ! 流石はお祖父様ですわね。私には空気が薄いか濃いかも分からないのに!」

私とミラージュはパチパチと手を叩く。
う〜ん……成程、そういう事だったとは……。確かミラージュの話では『エデンの楽園』は、天空にあると聞いたことがあるし。

「そ、それでは……今迄この『ドラゴン王国』に来れなかった人々は誰もが高山病を克服できなかったという訳ですね?」

ようやく息が戻ってきたのか、ナージャさんがムクリと起き上がった。

「あ、もう大丈夫ですか?」

「ええ。お陰様でようやく体調が回復しました」

私の問いかけに笑顔で答えるナージャさん。

「宜しい! それではここで今からティータイムをするとしよう!」

そして長老様はポンポンと手を叩いた――