「はい、お姉さま。どうですか? この髪型はこの間町へ行って聞いてきたんですよ。最近若い町娘たちの間ではこの両サイドをまとめたヘアスタイルが流行らしいです」

完璧なヘアセット……我ながらよくできたと思う。これならきっとお姉さまも気に入るだろう。

しかし……。
手鏡を持った姉の手がプルプルと震えている。

「お姉さま?」

何か気に障ることでもあったのだろうか?

「レベッカ……あんたねぇ……」

お姉さまは怒りのまなざしで私を見ると怒鳴りつけてきた。

「馬鹿じゃないのっ!? どうして第一王女である私が町娘たちと同じ髪型をしなくちゃならないのいよ!? どうせなら他国の王族とか、貴族の間で流行っている髪型にしないでどうするのよっ!」

お姉さまは言いながら、折角渾身をこめたヘアスタイルをぐしゃぐしゃにしてしまった。

「ああ! せっかくセットした髪がっ!」

思わず大声を出すとさらに怒鳴られてしまった。

「おだまりっ! レベッカ! いい? 次に平民の髪型を真似たら承知しないわよっ! ちゃんと王侯貴族の髪型をセットしなさいっ!」

「そ、そんな……お姉さま。どうして私にそんな髪型を学べるのですか? 今まで他の王族や貴族の人たちに会ったことすらないのに……」

滅茶苦茶な事を言ってくるお姉さまに思わず意見してしまった。

パシッ!

右頬を強く叩かれてしまった。

「うるさい、小汚いレベッカめ。そんなの私の知ったこっちゃないわ。とにかく今日は罰よ! お前もミラージュも今日は夕食抜きよ! メイドに伝えておくからね!」

「ええ! ひ、酷いっ!」

私はまだ10歳の食べ盛りなのに? ミラージュは神獣と呼ばれるドラゴンなのに? これはあまりに酷い話だ。

「お、お願いです。お姉さま……どうか食事だけは……」

思わずお姉さまの美しいドレスの裾を掴むと今度は左の頬を叩かれてしまった。

「ええい、目障りよっ! 早く出ておいきっ!」

激しく突き飛ばされて、部屋の外に追い出されると目の前で乱暴にドアが閉ざされてしまった。

「……はあ……」

私は深いため息をついてしまった。

「ミラージュに報告に行って来なくちゃ……。また今夜も夕食抜きにされてしまったって……」

畑仕事をさせられているミラージュの元へ、トボトボと歩き始めた。


****

 良い香りのするハーブガーデンを抜けると、そこはオーランド王国の所有する畑だ。この国は本当に貧しく、自給自足を強いられている。そして私たちの食料も畑で作っているのだ。その管理を任されているのがミラージュであった。
だけど、私がいるから最近はこの畑の作物の出来は素晴らしく、畑の規模も3倍近くに拡大した。……にも関わらず、誰もが私の力のおかげという事に気づいていない。もっとも気づかれても困るのだけど……。

 ラベンダーのハーブ園の傍を通りかかったとき――

「あ~ら。そこいるのはレベッカじゃないの?」

私はその意地悪な声にピタリと足を止めて振り向いた。どうしよう……まずい人に会ってしまった。


「どこへ行くのかしら? そんな小汚いなりで…」

ゆっくり近づいてくるのは2番目のお姉さま。一番意地悪なお姉さまである。
私は何度この人に酷い目に合わされた事か……。

そして、ついにこの日……私は怒りのあまり、力を発動させてしまった――