「西山さん、僕の声聞いてますか?」

名前を呼ばれてハッとした。あの安らいだ声が急に近付いたから。

「今授業中ですよ、寝てる場合じゃないですよ西山さん」

顔を上げたら目の前に、その声の主である崎本(さきもと)先生が立っていた。カチャっとメガネを直して、上から見下ろすようにじぃっと私を見てる。

こんな近くで見たのは初めてかもしれない、メガネで気付かなかったけど案外整った顔をしてるのね。確か年齢は25歳…だったかしら?この学校で1番若い先生だったと思う。

こんなに近くで聞くことはなかったから、爽快に私の目を覚まさせた。


なんて素敵な声なんだろうって。


「僕の授業そんなにつまらないですか?」


困ったようにハの字にした眉で私に近付いて、肩を落とすようにはぁっと息を吐く。

「あんまり寝ないでほしいですねぇ、僕の授業で」

「すみません、先生」

ゆっくり立ち上がった、静かにイスを動かして。

「先生の声があまりに綺麗で私好みの声でしたので思わず瞳を閉じてしまいました」

ボケているわけでもなく、ふざけているわけでもなく、真剣な顔で。


本心なので、これが私の。


だから真っ直ぐ崎本先生の目を見て答えた。

「…うん、それはありがとう西山さん。でも今これは英語の授業中だからね」

引きつった笑顔を見せる崎本先生。

なぜかしら?褒めたのに、いいところを言ったまでなのに不思議ね。

キーンコーンカーンコーン…

授業終了のチャイムが鳴った。
じゃあ終わりましょうか、と崎本先生が私の元から離れて行った。

教台に戻って教科書を閉じて、寝てしまったことを反省しながら、でももう少し崎本先生の声を聞いていたかったなぁと教科書を机の中にしま…

「西山さん、宿題のノートを集めて職員室まで持って来て下さい」

「え?」

「居眠りしてた罰ですよ」