中学校に上がって4ヶ月がたった
まだ誰とも仲良くなっていないのは多分、僕だけだ
僕はいつも通り机に顔を伏せて耳を塞ぐようにした

「お前といるとほんと楽しいわあ」

「えー田中くん?全然!好きじゃないよ!」

「ああ、あいつ?すごいよな!」

それでも聞こえてくるクラスメイトの話し声

調子のいい会話に聞こえるけどほんとはみんな相手のことをよく思ってないし嘘ばかり

「おい松本早くこいよー」

彼を呼ぶ声は鳴り止まない 
でも本当に彼を好きなのはごく一部に過ぎない

あの時だって、

言葉なんてなくなればいいんだ

この世から音なんて…



憂鬱な気分のまま授業が進んでいきあっというまに放課後だ
終了のチャイムが鳴ると同時に教室を1番に出る
いつも通りまっすぐ帰る予定だったのに担任の先生と目があってしまった
今日はとことんついていない
「お、宮瀬ちょうどよかった暇なら手伝ってくれ!」
音楽室まで資料を届けるのをまかされた
なにも全部持たせることないだろう
先生は僕に資料を持たせて仕事が残っているからとどこかへ行ってしまった
無責任な先生だ
帰宅部の僕は運動なんてしないから体力なんてない
音楽室に資料を机の上に置いて帰ろうとしたときもう使われていない音楽準備室が目に入った
もう倉庫になっているし人がいるはずもないけどリンッと鈴の転がる音がした
普段なら気にも留めないけどなぜか引き寄せられるように気づけば音楽準備室の扉の前に立っていた
緊張しながら扉を開けると女の人がいた。
シューズの色からして1つ上の先輩…
肩より少し長い綺麗な黒髪に校則をきっちりと守っているひざまであるスカートは開かない窓の隙間からわずかに入りこむ風に流されてはふんわりと揺れていた
ついじっと見つめているとそれをさらにふんわりとさせたと思ったらこちらを振り向いた
そのとき一瞬だけリンッと鈴のような音が2人だけの部屋に響いた
髪色と同じ真っ黒だけどパッチリと澄んでいる瞳と目が合ってその瞳に今は僕だけが映っている。
『嘘のない瞳』ふとそんな言葉が浮かんできた
目元がうすい赤に腫れていた
「なんで泣いてたの?」
そんな言葉が口を突いてでた
しまった非常識だったかもしれないと慌てて弁明しようとしたがあたふたしてしまって言葉が出てこない
するとその人は少し笑って僕の手をとり1文字1文字ゆっくりと口を動かして"あ り が と う"と言った
久しぶりに人と関わったからか恥ずかしくなってしまった

次の日めずらしくぼーっとしていてまともに授業を聞かず僕の頭の中はあの人でいっぱいなままあっというまに放課後になってみんなが帰り出すと同時に僕の足は音楽準備室に向かっていた