聖魔法騎士団の初任給は、月に金貨五枚だと聞いている。かなり高い。前世基準で五十万だ。

 その一部を、アイディアグッズを作るための材料費にあて、残りを生活費に回すつもりだが、贅(ぜい)沢(たく)贅沢をしなければ余裕のある暮らしができるだろう。

 この家の家賃は月に銀貨二枚だというので――使っていないぼろい民家だったので安かったらしい。ただし、雨漏りがするのが難点だ――、固定費に泣かされることもない。

 ……孫の手ならぬ猫の手も十本くらいできたし、このあたりで、売れるかどうか試してみたいわよね。

 わたしたち家族には商売の心得がないし、ツテもないので、売るならどこかの商会に話を持っていきたいものだ。また考えてみよう。

「そういえばね、裏庭のトマトに花が咲いたんだよ」

 王都は、もうじき春が終わる。

 夏になれば、お父様がせっせと耕した裏庭の菜園から野菜が収穫できることだろう。

 ……トマトに花が咲いたと喜ぶ伯爵もいないわよねえ。

 だが、お父様のこんなのほほんとした様子に和むのも事実だ。

「僕も見たよ。トマトの花って黄色いんだね。実と同じで赤いのかと思ってた」

「エッケハルト、トマトの実は、熟れたら赤くなるけど、熟れる前は緑色をしているのよ。そして緑色のトマトは全然美味しくないから、赤くなるまで待たないとダメよ」

「「「へー、そうなんだ~」」」

 エッケハルトだけじゃなくお父様もお母様も知らなかったのか。よかった、教えておいて。緑色をしたままのトマトが食卓に並ぶところだったわ……。恐ろしい。