基礎試験が免除されている留学組の試験は、病院で実際に病気や怪我に苦しむ人に聖魔法をかけて治癒を施すというものである。

 この世界は、魔法なんてものがあるせいか、正直言って、医学はちっとも進歩していない。

 いや、ある意味では、「魔法」によりものすごく進歩しているともいえるのか。

 まず、病気や怪我は聖魔法、もしくは聖魔法の使い手が作ったポーションという薬で癒すのが基本だ。

 化学薬品なんてものはないし、手術もない。

 科学的に病気を分類するようなことはしないし、そのための研究機関もない。

 全部魔法頼み。そしてそれですべて事足りる。さすがは異世界という感じだった。

 ゆえに、今から向かう病院は、ポーションで怪我や病気が治癒できない人たちが、聖魔法の使い手に魔法をかけてもらうのを待機する場所である。

 病気や怪我でほとんど動けない状態だったりすると家で面倒を見られないので、病院に入院させてお世話をしてもらったりする。これは、前世の介護に近い。

 そして、痛み止めのポーションを飲みながら、聖魔法をかけてもらえる順番を待っているのだ。

 ちなみに、聖魔法騎士団は、慰問という形で定期的に病院を訪れたりはするけれど、彼らの任務は病人や怪我人を治癒して回ることではなく国のために働くことなので、その頻度は少ない。

 病院に入院する患者を癒すのは、主にその病院に勤めている聖魔法使いだ。そんな病院勤めの聖魔法使いを、この世界では「医者」と呼ぶのである。

 聖魔法は普通の魔法よりも魔力消費量が多いため、一日に使える回数も限られている。だから治療は順番待ちになるわけだが、治療の順番を待っている患者にしてみたら、年に一度行われる聖魔法騎士団の入団試験日は、そんな順番を無視して怪我や病気を治してもらえるかもしれない最大のチャンスでもあった。