なぜと思う気持ちはあるけれど、お父様の行動が招いた結果なのだから、これでは逆恨みだろう 。

 わたしは深呼吸して気持ちを落ち着けると、ヨアヒムに向き直る。

「ええ。留学から帰ってきたから。あなたも受けに来たのね」

 ヨアヒムは二十歳。騎士団、聖魔法騎士団問わず、入団試験を受ける人間の平均年齢は十七歳から十九歳であるため、受けるにしては少しばかり遅いような気もする。

 それに、ヨアヒムは聖魔法が得意ではなかったはずだ。

 わたしが国費留学の選考試験を受けた時にヨアヒムも受けていたが、彼は不合格だった。

 ……あの時は散々八つ当たりをされたものね。女のくせにとか、かわいげがないとか。選考試験に合格することとかわいさのなにに関係があるのかわからないけど。

 過去を思い出してちょっと苛立ちを覚えていると、ヨアヒムがはんっと鼻で嗤った。

「女の、しかも家が没落した人間が、聖魔法騎士団に入れると思っているのか? お前みたいなのがいたら騎士団の品格が落ちる。邪魔だ。とっとと帰れよ」

 ……なんですと?

 こいつはもともと性格が悪かったが、今のはかなりカチンときた。

 聖魔法騎士団だけではなく剣や魔法で戦う騎士団にも女性は一定数いるし、試験に身分の垣根はない。平民でも、才能があれば聖魔法騎士団や騎士団の入団試験を受けることが可能だ。

 そして、合格すれば身分に関係なく準騎士の称号がもらえる。

 準騎士や騎士の称号はすなわち、準騎士爵、騎士爵という爵位で、その爵位は一代限りという制限はあるが、つまりは平民でも貴族の仲間入りができる数少ないチャンスであるため、受験者の中には平民も多く混じっていた。ただし、教育にかけられる金額の差から、最初の筆記試験で大半が落とされ、実技に残れる平民はほとんどいないけれど。

 ……筆記の合格点が足りていなくても、実技では充分に合格点を叩き出せる人もいるんでしょうに。もったいない。

 前世と違って、ここは身分社会だ。

 まあ、前世でも身分階級が残っている国もあったし、身分がなくとも格差社会だったため、平等とは言いがたい世界だったので、身分差によって悔しい思いをする人が出ることは、悲しいけれど仕方がないとも思っている。

 全部が全部綺麗に平等である社会を作るのは、とても大変なことだから。

 そしてそんな社会は競争を阻むので、成長しなくなる。

 どっちがいいのかはわからないけれど、全部が丸く収まる方法がないのだけは確かだ。