試験は筆記と実技の二種類だ。

 まずは筆記試験でふるいにかけられ、合格点に達した者が実技試験に臨める。

 筆記は聖魔法に関する基礎知識と法律だ。騎士も聖魔法騎士も前世で言うところの公務員のようなものなので、必要な法律を知らない人間はもちろん弾かれる。

 筆記試験は難なくパスできたから、今日の実技試験に合格できれば、わたしは晴れて聖魔法騎士団に仲間入りだ。

 ……落ち着け、落ち着け~。

 憧れの聖魔法騎士団。さらには、現在家族の生活も背負っているわたしとしてはなにがなんでも合格を勝ち取らなければならないので、プレッシャーが半端ない。

「なんだ、お前も受けに来たのか」

 両手を握りしめて深呼吸をしていたわたしは、ふと、聞き覚えのある声に振り向いた。

 青みがかった灰色の髪にグレーの瞳の、ひょろりと痩せ型の男が立っていて、わたしは思わずぐっと奥歯を噛(か)噛んだ。

 ヨアヒム・アンデルス。

 わたしが留学している間にいつの間にか婚約が解消されていた、元婚約者。

 そして、お父様が借金を作った、アンデルス伯爵家の嫡男。

 ヨアヒムの父親のアンデルス伯爵とわたしのお父様は昔から知己の間柄だ。アンデルス伯爵はお父様の性格を知っているため、投に手を出しても失敗する可能性が高かったことくらいわかっていたはずである。

 それなのに、能天気でお人よしのお父様に対して金を貸してやるなんて甘い言葉を囁いて、その借金の形に領地を没収した。

 もちろん、借金を作ったのはお父様だし、投資に失敗したのもお父様だ。

 恨むのは筋違いだとわかっているが、なぜひと言、やめておけと止めてくれなかったのか。

 そう思わずにはいられない。

 ヨアヒムもヨアヒムだ。

 お父様が投資を始めようとした時はまだわたしと婚約関係にあったのだから、未来の義父の愚行を諫めるくらいしてくれてもよかったはずなのに。

 ……って、これじゃあ八つ当たりかしら。