これはまだなにかありそうだなと思ってじとーっとお父様を見つめていると、うっと言葉に詰まったお父様がぼそぼそと付け加えた。指をもじもじしているけど全然かわいくないからね。

「ええっと、投資しようと決めたんだけど、投資に回すだけの蓄えがなかったからね、アンデルス伯爵家にね、借りたんだよね。ヨアヒム君が貸してあげるって言ってくれたから。だけど失敗してお金がなくなっただろう? 返せなくなったから、邸と領地を取り上げられちゃって……」

「ちょ、ちょっと待って!! 邸だけじゃなくて領地まで取り上げられたの!?」

「しゃ、借金する時の担保ってやつでね……。あっ、でも、借金を完済したら返してくれるって言ってたよ!!」

 ……毎日ふかし芋で、茶葉も買えないような状況だったのに、借金を完済する目途が立っているとは思えないけど?

 借金を返したら戻ってくると能天気なことを言っているが、返す目途も立っていなければ方法もないのにどうして能天気でいられるのだろう。

 ……もう信じられない、この昼行燈!!

 とうとう両手で頭を抱えると、お父様はちょっと言いにくそうに、「でね~」と続けた。

「領地はね、借金を完済したら返してもらえるんだけど、その、マルガレーテとヨアヒム君の婚約がね、今回の件で白紙に戻っちゃって……」

「ああそんなことは今はどうでもいいわ」

 貴族令嬢として、婚約が破談になるのは問題と言えば問題だが、ヨアヒムよりもこの状況の方が何倍も深刻だ。というかヨアヒムのことは別に好きではなかったのでショックもなにも受けていない。住む場所も領地も取り上げられた伯爵令嬢をもらってくれる物好きなんて、そもそもいやしないだろうし、この際破談の傷なんて些細なものだ。

 ……ああでも、エッケハルトのためになんとかしないと!

 両親はのほほんとしているから危機感ゼロだが、このままだとエッケハルトが苦労をしょい込むことになる。

 考えなしのお父様はそのうち領地を取り戻せるつもりでいるのかもしれないが、はっきり言おう。今のままだったら千年かかっても無理である。