十歳のエッケハルトをひとりでお使いに行かせるのは不安だったのか、お母様もついていくと言ったので、わたしは狭い玄関にトランクを置くと、急いで裏庭に回った。

 そこでは、今まで見たことがない作業服みたいな格好をした父ヘンリックが、せっせと野菜の苗を植えている。

 エッケハルトに三十歳ほど年を取らせたような、外見だけはなかなかイケオジなお父様だったが、一年見ないうちに髪が伸びていた。散髪をケチっているのかもしれない。

「お父様、ただいま」

「うん? ああマルガレーテ! 一年会わないうちに大人っぽくなったなあ!」

「お父様はだいぶ変わったわね」

「ああ、髪が伸びたからねえ」

 髪以前に格好もだが、本人はまったく気にしていなさそうなのでわざわざ口にするのはやめておいた。それよりも聞きたいことがあるのだ。

「お父様。この状況はいったいどういうこと? なにがあったの? いくらなんでも異常事態でしょう!」

 するとお父様はしょんぼりと肩を落として、それから眉をハの字にすると、残った野菜の苗を見て息をつく。

「説明すると長くなるから、先にこれを植えてもいいかなあ?」

 わたしはお父様の足元にある野菜の苗を見て、はあ、と嘆息した。

「……わたしも手伝うわ」

 能天気なお父様は、ぱあっと顔を輝かせて笑った。