わたしはさっと手持ち鞄から銀貨を取り出すとエッケハルトに持たせた。

「エッケハルト、成長期なんだからきちんと食べないとダメでしょう! わたしはお父様に話があるから、それを持ってなにか買ってきなさい!!」

「わ! 姉様お金持ちだね!」

 ……あぁ! うちの弟が! 伯爵家の嫡男であるうちのかわいい弟が、一年会わないうちに銀貨一枚でお金持ちだとか言うようになってるよ!!

 前世の感覚で言えば、銀貨一枚は日本円で一万円ほどの価値である。前世の十歳の子に一万円は大金だろうが、貴族のおぼっちゃんであるエッケハルトには珍しくもなかったはずだ。

 お金のありがたみを知ることは大切だろうが、伯爵令息としてはこれは由々しき事態である。

 わたしは慌てて手持ち鞄から財布を取り出すと、それをお母様に押しつけた。

 これらはコーフェルト聖国で勉強する傍ら、聖魔法の訓練目的で作ったポーションを売りさばいて得たお金である。ざっと金貨十枚分入っているはずだ。ちなみに日本円換算でおよそ百万円。

 お母様は財布を開けて「まあ!」と目を輝かせた。

「これでしばらくパンが食べられるわね! お肉も買えるかしら~」

 ああ、泣きたい……。

 ちょっと前まで『あなた~、新しいドレスが欲しいの~』なんて季節ごとにドレスを新調していたお母様が、パンと肉に喜んでいる!