今の時代、貴族は身分の上に胡坐をかいているだけでは生きていけない。

 ゆえに、家が没落したという噂を耳にしたことは何度もあるし、貴族たちはなんとか家を存続させるために、事業を起こしたり、投資を始めたりしていた。

 かつて貴族は、身分に対する国からの支給金と領地から得られる税金だけで生きていられた。

 しかし、身分に対する支給金を国が取りやめたことで困窮する家が続出。

 貿易などで安い外国製品が入ってくるようになったことで、領地持ちの貴族たちは、ただ領民に田畑を耕させ、家畜を育てさせていたらいいわけではなくなった。

 新しい波に乗れない貴族は次々と没落し、事業を起こして財を成した平民の富豪に、そんな貴族の爵位が安く買い叩(たた)叩かれたりしている時代である。

 お父様が「ハインツェル」という姓を名乗っているので、まだ、爵位を取り上げられたわけではないだろう。

 けれども、あの能天気家族を放置していたら、近いうちに伯爵という身分まで奪い取られる危険性があった。

 ……わたしが留学なんてしたばっかりに!

 いくら能天気な家族でも、たった一年で大問題は起こすまいと思っていたのに、とんだ誤算だった。いったいなにをした、父よ。勘弁してほしい。