こないだから、リアンにあしらわれているガルシア将軍は、とうとう馬鹿げたことを言い出した。

「よぉ、王妃様、俺と武芸で勝負してみないか?」

「頭、おかしくなったか?」
 
 オレの言葉にガルシア将軍は肩をすくめる。

「いや、本気だが?得意な物はないのか?その口先だけしか能がないのか?」

「いいわよ。勝負する?」

 リアン、受けると思った!オレはわかってたぞ!慌てて止める。

「リアン!やめろ!……補修費はまだ予算外だ!」

 オレの言葉に将軍が、は?と、とぼけた声を上げる。リアンはムッとして半眼になる。

「そこはウィルバート、『心配だ!危ないから止めろ』って言うところよ」

「するなら魔法攻撃で勝負するんだろう?被害が甚大になることを予想しているんだよ!城を破壊される!」

 魔法でならば、将軍に勝てるだろうと思ったオレはつい即座にそう言ってしまう。いや、もちろん心配は心配なんだが……最近、あまり使わないから忘れがちになるが、リアンの才は魔法も秀でている。オレは身をもって過去の事件の数々で知るはめになった一人だ。

「魔法を使えるのかよ!だが、それは反則だ!武芸で勝負だ!剣や槍、弓とかなんか無いのかよ?」

「王妃にそんな危険な真似をさせるわけにはいかないでしょう。ガルシア将軍、正気ですか?我々は王に仕え、王妃を守る立場なんですよ!?陛下は許すのですか?」

 さすがセオドアは常識人だった。きっちりと止めてくれる。

「もちろん、許さない。許可するわけがない」

 久しぶりに魔法を使う時の美しくて、幻想的とも言える彼女を見たかったが、確かにガルシア将軍相手では危険すぎると思うし、武芸で勝負とか、リアンに何させるつもりだよ!?

「別に、挑発にのっているわけではないわよと、前置きしてから提案するわ」

 リアンも何するつもりだよ?もう嫌な予感しかしない。

「騎士団の方々の訓練も兼ねて勝負するってことでどうかしら?弓術で行いましょう」

「おおっ!?意外と勇敢な王妃様じゃないか!騎士団の訓練を兼ねるってどういうことだ!?」

 オレはそこで気づいた。リアンはすでに将軍を手の内の策に入れている。ガルシア将軍は自分がその罠の網にかかっていることに気づいていない。でも弓術、リアンはできたっけ?

 セオドアが良いんですか!?と慌てている。アナベルはリアンに危険な暇つぶしをするのはおやめくださいっ!と、さすが長い付き合いだけあって、何かしようとしていることに気づき、小声で止めている。

 オレは止めようと思ったが、好戦的に笑う彼女が負けたところを一度も見たことがない。負ける勝負にはまずのらない。リアンには勝算がある。ここは見守るところか?

 でも何故、ここまでリアンはガルシア将軍との勝負にやる気を出しているんだろうか?

 それがオレにとって、今、一番の謎だった。