ドスドスと重い足音、鎧のガシャガシャと言う音、蛮族平定から帰ってきた男がいた。

「ガルシア将軍が帰還しました!」

 慌ただしく走ってきた衛兵がそう告げると同時に、玉座の間に現れ、乱れた黒髪、顔に傷のある巨漢は不敵な笑みで礼もとらずに、玉座に座るオレの前に立って、見下ろす。

「陛下、只今、帰ってきました。……知らないうちにご結婚おめでとうございます」

 嫌味ともとれる言い方だと、オレは肩をすくめる。

「ご苦労だった。思ったより長かったな」

「俺にどんな女なのか相談もなく決められたようで、少々気分が悪いんですがね?」

「別に将軍の許可はいらないだろう?」

 何言ってるんだ?とオレは冷ややかに返す。いつ終わるかわからない戦を待っていて、リアンの気持ちが変わったら、どうする気だよ?

「兄のように慕ってくれていると思っていたので、寂しい限りです」

 ……嘘つけとオレは悪態をつきたくなる。父王の時に腐敗したやつらを粛清したときに、こいつもついでに葬りたかったが、ふてぶてしい態度以外は何も出てこなかったから仕方ない。

「リアンに……王妃に近寄るなよ」

 オレは冷たくそう言い放つ。ガルシア将軍が目を丸くした。

「陛下がそんなに女にご執心になるとは!そこまで良い女なら、余計に拝んでみたいな。なんでも他の者からの話では、陛下は王妃の前では人が変わるとか?まさか腑抜けになってないですよね?」

「セオドア!」

 オレの横にいた騎士のセオドアがハイと返事をした。

「絶対にリアンに近寄らせるな!」

「承知いたしました」

 スッと影のようにセオドアは去っていき、リアンの護衛につく。

「ハハッ!セオドアで俺に勝てるかな?」

 嘲るように笑う将軍。

「後宮にはオレの許可なく他の男は入れない。無理に入るなら法で裁くぞ。法以外にも……方法はいくらでもあるけどな。それを知りたいのなら、かまわないけど?」

 むしろ遠慮なく、裁いて、倒して、こいつを将軍から引きずり降ろしたいな。不敬すぎる将軍にオレはウンザリしていた。誰よりも強いが、性格に難があり、Sっ気要素が強すぎて扱いにくい。

「さすがに入れないのはわかっていますよ。しかし冷たいな。紹介もしてくれないなんて……」

「ガルシア将軍、遠方での戦、疲れただろう?ゆっくりと休め」

「本当に可愛げが無くなってしまって、陛下はつまらない」  

 捨て台詞を吐いて、フンッと鼻息荒く背中を見せて去って行く。

 はあ……とオレは嘆息した。将軍とは仲が悪いわけではない。ただ、無駄に威嚇をしてくるので、疲れる。

 幼い頃から、剣や体術を教えてくれたのは彼だ。とてつもなく厳しい訓練だったが……あれがあって、今のオレの強さがあるとも言える。殺されるかと思うくらいだったし、殺気が本物であった時もある。あの男は要注意だと未だにオレは警戒している。

 リアンには絶対に近寄らせないようにしよう。危険な男すぎるのだ。