騎士団の訓練所には、大量の弓矢と大小様々な的が用意された。リアンがルール説明するわね!と楽しそうに話しだした。

「私達は戦わないわ。するのは騎士の方々よ。よろしくね!2チームになってくれたかしら?ルールはとってもわかりやすくて、簡単よ。的に確実に当てる。最後に手持ちの弓矢が多い方が勝ちよ」

「楽勝だな!頼まれた騎士たちのチームを分けておいたぞ。こっちは俺で、そっちは王妃だ」

 ガルシア将軍がチーム分けをしたらしい。とりあえず大事なことを確認しておこう。

「それはちゃんと力が均等になるように、分けてあるんだよな?」

「もちろんだ!武人は正々堂々と戦うものだ」

 心外だとオレにガルシア将軍が言い返す。まぁ……それなら、リアンがもう負けることないと思うのだった。

「もうっ!お嬢様ったら、陛下のために怒りすぎです。こんなことするなんて……」

 ブツブツと心配そうに、彼女と仲の良いメイドのアナベルがそう言っている。……オレのため?どういうことだ?なにかあったのだろうか?

「コインで先攻と後攻を決めましょう」 

「いいぞ。俺は表だ!」

「じゃあ、私は裏ね」 

 ニッコリとリアンは笑って提案した。金色のコインが中を舞う。キラキラと光を反射させてリアンの手の中に落ちた。……裏だ。

「じゃあ、私は後攻でいいわ」

「よしっ!先攻で行く!」

 ズラッと並ぶ騎士たちの手には弓があり、キュッと引く。

「いいか!?勝利はこっちにある。思いっきり弓を引け!お前たちは優秀な兵だ!やればできる!………行け!」

 でかい声で鼓舞するガルシア将軍の覇気は圧倒的だ。騎士たちの気持ちが高揚する。

 狙いを定めろ!的をしっかり見ろ!とガルシア将軍は声をかける。おー!と騎士たちが叫び、盛り上がる声。もう一種のお祭りになっている。ヒュンヒュンと弓矢が空を切る音とダンッダンッと次々に的に当たる音。

 リアンは顔色一つ変えることなく、腕を組んで傍観している。

「終わったぞ!」   
 
 リアンはニッコリと笑い、パチパチと拍手する。余裕である。
 
「騎士の方々、とても素晴らしい腕前だったわ。じゃあ、こちらのチームの番ね!」
  
 ガルシア将軍がフンッと小馬鹿にするようにリアンを見た。
 
「ヒラヒラしたドレスを着た女に負けるわけが無いだろう?」
 
「確かに、兵の士気を上げるのは、やはりガルシア将軍の方が上よね」

 リアンはそう認めつつ、クルッと自分のチームに向かって言い放つ。

「さあ!弓矢は豊富にあるわよ!まず、訓練場に落ちてる弓矢を拾うわよ!」

『ええええええ!?』
  
 その場にいた誰もが叫ぶ。

 オレだけは予想していたので、やっぱりこんなことだろうと思っていたと呟いた。

「はあ!?何言ってんだ!それはルール違反だろ!?」  

 リアンはピッと人差し指を立てた。

「あら?拾っちゃだめってルールあった?」
 
「え……いや……その……」

「私は武人ではないもの。正々堂々するわけ無いじゃない」

「なっ!なんて狡賢い女なんだっ!」

「小賢しい女って言われる方が、私はいいわねぇ〜」

 リアンが怯むことなく言い返す。ガルシア将軍にオレはニヤリと笑った。

「将軍、やられたな。リアンに勝負を持ちかけ、彼女が受けた瞬間に実は負けていた」

 そもそも先攻と後攻を決めるためにコインをリアンは投げたが、そのコインも彼女の思いのまま操れるコインだった。
 
「陛下!でも……これは公平じゃないだろ!?」

「ガルシア将軍も自分の得意な武芸でリアンに勝負を挑んで来たんだ。それをリアンの得意とする智謀で迎え撃った。公平だろ?」

 オレの言葉に、珍しくうなだれる将軍を見たのだった。

 勝負の後、リアンにたった一つ懸念があったことを尋ねてみた。

「ガルシア将軍が騙されたと激情して剣でも抜いたら、どうする気だったんだ?」

 オレが聞くと、リアンはフッと笑った。キラキラと緑の目が輝いていて、とても可愛い。

「そんな時はウィルバートが守ってくれるんでしょ?」

「ああ、そうだな。もちろん守るよ」

 オレは否定することなく、頷いた。もちろん守る。例え、どんなに怖いと感じる相手だとしても、リアンのためなら、戦える。それは疑いようもないことだった。

「ちゃんと私が勝つと思って、任せてくれて……そして信じてくれてありがとう」

「リアンのことはわかっているからね」

 嬉しそうに笑いながら言うリアンをギューッと抱きしめたくなったが、もう一つ聞きたかったことがあった。

「そういえば、なんでリアンは将軍との勝負に異様にやる気があったが、なぜだったんだ?」

「………秘密よっ!」

 そう答えたリアンの顔がなんで赤くなるんだ!?

 やっぱりオレは時々、彼女はわからない……。