音楽を聴き流しながら適当に単語帳を眺める。高校に近づくにつれてちらほらと同じ制服を着た生徒たちの姿が目立ち始めた。

降りる駅につくと、人の波に押し流されるように電車を出て、人ごみに押されるまま改札を出る。

「おはよっ、ひまり!」

突然後ろから背を押されると同時に、明るい声が聞こえた。
朝から駅でこんなふうに挨拶してくれるのは、1人しかいない。

「おはよ、志穂。ほんと、いつも元気いっぱいだよね」

声の方に顔を向け、苦情を漏らしながらそう言うと、志穂は「でしょう?」となぜか自慢げに笑った。

志穂は知り合いが誰もいないこの高校で初めて出来た友達、と呼べる相手だ。