「頼む。偽装彼女になってくれ!!」

 唐突なお願いだった。その言葉に正直驚いた。相手はクラスメイトということ以外は接点がない男子、瀬川仁志だったからだ。友達はそこまで多くはなく、クラスの端でただ、寝ているイメージしかない。
 意味が分からない。なぜ、私に頼むのだろうか。
 いや、私以外に頼める人がいないのかもしれない。

「無理だったらいいよ」

 私が考え込んでいたからなのだろうか、自信がなさそうになってきた。

「いや、そうじゃなくて……なんで私なんだろうって。というか、偽装彼女って?」
「ああ、説明が足りなかったな。僕は、おばあちゃんに嘘をついてしまったんだ。彼女がいるって。それで……」
「私にあなたのおばあちゃんの家についてきてほしいってこと?」
「うん」

 そう言って、彼は手をいじいじとし始めた。やはり自信がないのだろう。実際、私は今腕組みをしてしまっている。
 腕組みは防御のポーズと言われている通り、私は彼に心を開いていない。
 正直面倒くさそうだし、断りたい。でも、

「なんで私なの?」

 理由は知りたい。私以外にもクラスにはたくさん人がいる訳なのだし、そもそも私よりはるかに声をかけやすい女子なんて何人もいる訳で、
 私である必要性が分からない。

「それは……」また彼はもじもじする。「クラスの女子の中で一番かわいいと思ってるから」

 その言葉に思わず「ふふ」と、笑ってしまった。
 なーんだ、そんな単純な理由か。
 単純な理由なのもそうだし、何よりもじもじする彼の姿がかわいくて。

 断るつもりだったけど、少し楽しそうなイベントに思えてきた。

「分かった。偽装カップルやってもいいよ」

 どうせ暇だし。そこまで大変でもないでしょ。

「ありがとう!」

 そう手を向けてくる彼を制止して、

「ただし、条件があります」