「ちょっと、シズルくんにお願いがあるんだけど……」

「お願い?」

「うん」

 シズルくんに私は、小さめの声で「あのね……彼氏のフリ、してくれないかな」とお願いした。

「はっ?彼氏のフリ……?」

「う、うん。……私、なんとしても結婚を回避したいの。 だからシズルくんに、彼氏のフリをしてほしくて」

 シズルくんにこんなお願いをするのはどうかと思ってしまうが、もうこれしかないと思った。

「彼氏のフリ、ね……」

 と悩むシズルくんに、「……ダメ、かな?」と聞いてみる。

「……わかった」

「えっ!本当に?」

 良かった……と安堵していると、シズルくんは「ただし、条件があるけど」と言ってきた。

「条件? なに?私に出来ることなら、なんでもするよ」

 するとシズルくんは、私の耳元で「俺とデートしてくれたら、彼氏のフリしてやるよ」と囁いた。

「……デート?」

 シズルくんとデートってこと、だよね?

「どう? 条件、飲んでくれる?」

「……うん、わかった。デートね」

「じゃあ決まりだな」

 シズルくんとのデートという条件で、彼氏のフリをしてもらうことにした。


* * *  
  

 卒業式の練習を終えた後、私はシズルくんの教室で合流した。
 
「ところで、どうするつもりだよ?」

「シズルくんと付き合ってるから、ミツキくんと結婚は出来ないって言うつもりなんだけど……」

「それでアイツが引くとは思えないけどな」

 そ、それはそうなんだけど……。