「どうぞ」

 ミツキさんの前にケーキとお茶を置くと、ミツキさんは嬉しそうに「ありがとうございます」と微笑む。

「リオル様、学校はいいのですか?」

「自由登校なので、大丈夫です」

「そうでしたか? いつもお一人ですか?」

 両親は共働きなので、昼間は一人だ。

「はい。父も母も仕事ですし」

「そうでしたか」

 お茶に「いただきます」と手をつけるミツキさんに、私は「ミツキさん、今日はどうして?」と問いかけてみる。

「言ったでしょ? あなたに会いたくて来たんですよ」

「……どうして、私なんかに?」

 お茶から私に視線を変えたミツキさんは、「婚約者様、ですから」と微笑む。

「でも私、結婚はしないと言ったはずですよ?」

 ミツキさんの顔を見ると、ミツキさんは「結婚する運命ですよ、僕たちは」と私をマグカップ越しに見る。

「……五歳の頃の話なんて、真に受けないでください。子供の頃の遊びですし」

 ルーレットを回した結果、婚約者がミツキさんだったと言われても信じられるはずもない。
 記憶にもないことを、掘り起こすこともしたくもない。

「いえ。僕はあなたの婚約者になったと言われてから、ずっと強くなるために努力をしてきましたので、本気だと捉えているのですが」

「はい……?」

「あなたを守るために、馬術や武道、空手などたくさん習ってきました。 あなたと結婚するその時まで、強くなるためにです」