頭の良い聡明な兄で、国から文官としての将来を嘱望されて、異国にある大学に留学していたのだ。

 ……とは言え、もうすぐ離婚してしまう私の家族のことなど、ライアンが気にする訳もない。

 けれど、夫婦として生活している以上、この日の予定を彼に報告しないのもおかしいし……複雑な思いを抱えたままで私がそう言えば、ライアンは目に見えて面白くなさそうな表情になった。

「いや。それは、まだ聞いていないな。僕も一緒に行こうか。義兄にも是非、ご挨拶をしたいし」

 私はこのライアンの申し出を聞いて、困ってしまった。

 実は私は今夜兄に、彼と離婚してからの仮の同居を頼もうと思っていたのだ。

 兄は近い将来モートン男爵を継ぐけど、城で高給取りの文官として働いているので、今は実家より大きな邸を構えている。

 これまでは建てたばかりの邸を放って留学して住んで居なかったけれど、気難しい両親の住む実家に行くより、兄の家へ住まわせて貰って、次の嫁ぎ先を探す方が私にとって精神的に楽な気がしていた。