「僕は君なら是非にと思って、あの時に、結婚を申し込みに行ったんだ。ニコル。けれど、その帰り、君が男性と抱き合っている姿を見てしまった。そして、僕は君と恋人を引き裂くようなことをしてしまったのではないかと、その時に絶望してしまったんだ」

「……ああ。それがあの兄であったということでしょう。貴方は何も……」

「そうだ。だが、公爵家からの縁談をモーリス男爵が断るはずもない。君だって何も言い出せないはずだ。だから、君を彼に返さねばならないと思っていた。二年の間だけは、僕の傍に居てもらおうと……」

 私のことをじっと見つめる彼は、今までの夫ライアンではない。別人になったようだ。今までの彼は一定の距離を空けた、善き隣人だったもの。

 そして、私もようやく自分が今居る状況が掴めてきた。

 ライアンは私に、是非と言って縁談を申し込んでくれた。けれど、その日の帰り兄と抱き合う私の姿を見て、恋人が居ると誤解してしまった。

 誤解してしまったから、私と結婚しても『白い結婚』として肉体関係なく過ごし、二年後には解放してあげようと思っていた……?