愛のない結婚とは言え、相手側の家族構成くらいは、頭に入っているはずなのではないかしら。

「けれど、三年間の留学に行っていると聞いていた。遠方の異国だし、まさか僕が見かけた時に、偶然帰って来ているとは思わなかったんだ」

 確かにあの時、兄は強行軍でとんぼ返りの数時間だけの帰国だった。実家に寄っている時間もなかったのだ。

「あの……ごめんなさい。ライアン。はっきりと聞くわ。何が言いたいの? 兄と私が抱き合っているところを見たとは聞いたけれど、それが何で私に謝らなければならないか、わからないわ」

「わからないか……君は、少々鈍感なところがある。そういうところも、可愛いと僕は思っていた」

 ライアンは急に真面目な表情になったので、私はとても狼狽えてしまった。

 私たちは夫婦になって二年近く一緒に住んでいるというのに、何をと言われてしまいそうだけれど、彼からこんな風に『可愛い』と言われたことなんて一度もなかったからだ。

「なっ……何なの。私、本当にわからないんだけど……ちゃんと言って。ライアン」