目の前に、血飛沫が舞った。
その時の私は、何が起こったのか、本当にわからなかった。例えるならば、あっという間に黒い突風が部屋の中に吹き荒れた。
私は何度目かの悲鳴が聞こえたところで、これはとんでもないことになってしまったのかもしれないと思った。
目の前で何人も、呆気ないくらいに倒れて行く人たち。残念ながら、王族の一人である私を攫おうと企んでそれに失敗した時点で、彼らの行く先はこうなっていた。
ダムギュア王国側がこれをどこまで知っているのかはわからない。けれど、私はダムギュア王太子ルイ様とお茶をしている間に眠くなってしまった。
だとするならば、間違いなく彼がこの事態に関与していると思って間違いないだろう。
……彼は一体何を考えているのだろう。私を攫えばこうなることはわかっていたはずだ。それなのに。
私はそこに立ち尽くす黒い影を見て、ようやくその名前を呼んだ。
「……デューク!」
彼は黙ったままで、私の方へと振り向いた。血が散った顔の中にある昏い瞳と視線を合わせた。夜の闇よりも深く、何かを吸い込むような。
デュークは常に飄々とした態度を貫く、余裕ある彼ではなかった。私を認識しているのかも疑わしい。まるで、獲物を捕らえた飢えた肉食獣。喉を搔き切るその瞬間を待っているかのような、強い緊張感。
ああ。我を忘れてしまっている。どうして……まるで、デュークがデュークではなくなってしまったような……。
その時の私は、何が起こったのか、本当にわからなかった。例えるならば、あっという間に黒い突風が部屋の中に吹き荒れた。
私は何度目かの悲鳴が聞こえたところで、これはとんでもないことになってしまったのかもしれないと思った。
目の前で何人も、呆気ないくらいに倒れて行く人たち。残念ながら、王族の一人である私を攫おうと企んでそれに失敗した時点で、彼らの行く先はこうなっていた。
ダムギュア王国側がこれをどこまで知っているのかはわからない。けれど、私はダムギュア王太子ルイ様とお茶をしている間に眠くなってしまった。
だとするならば、間違いなく彼がこの事態に関与していると思って間違いないだろう。
……彼は一体何を考えているのだろう。私を攫えばこうなることはわかっていたはずだ。それなのに。
私はそこに立ち尽くす黒い影を見て、ようやくその名前を呼んだ。
「……デューク!」
彼は黙ったままで、私の方へと振り向いた。血が散った顔の中にある昏い瞳と視線を合わせた。夜の闇よりも深く、何かを吸い込むような。
デュークは常に飄々とした態度を貫く、余裕ある彼ではなかった。私を認識しているのかも疑わしい。まるで、獲物を捕らえた飢えた肉食獣。喉を搔き切るその瞬間を待っているかのような、強い緊張感。
ああ。我を忘れてしまっている。どうして……まるで、デュークがデュークではなくなってしまったような……。