「中西紗英さんでよろしかったですか?」

「え?私は青野…」

そこまで言いかけたが、荷物の送り状には、晃輝の字で“中西紗英”と書かれてある。

「引っ越しのお荷物ですね。他にもまだ段ボールはあるので、全部持ってきます」

いくつかの段ボールが運び込まれた。

家具家電付き物件に住んでいたので、引っ越しの荷物は服や鞄など身の回りのものだけだ。

段ボールに書かれた“中西紗英”の文字に、本当に結婚してしまったのだと改めて感じる。

同じ筆跡で書かれた、食卓の置き手紙をぼんやりと見つめた。

昨日からずっと、強引に命令形で話してきた晃輝。

私が甘え下手なことを知っているから、わざとそんな風に言ったことぐらいわかる。

ひ弱なメンタルのくせに、誰かに甘えることは苦手。

人前で泣くことができなくて、泣く時はいつも一人。