「及川くん」

「ん?」

「私たち、友達に戻ったほうがいいかもしれないね…」

そう言うと、及川くんは表情が固まり、しばらく黙ってしまったが、

「そっか…。三井さんが望むなら、そうしようか…」

静かにそう答えた。

彼の表情が切なげに見えたが、もう自ら切り出してしまったことだ。

理由も一切聞かれず、引き止められなかったことが、私の感じていた疑問への答えなのだと思った。

私が帰ろうとすると、及川くんは送るという。

いいと言っても、送ってくれた。

彼は、最後まで優しいままだ…。

じゃあね、と、彼に背を向けると、マンションのエントランスで涙が溢れた。

やっぱり、あの男の言うように、単なる私の片想いだったのだろうか。

だとしたら、これまでの日々は、一体何だったのだろう?