思わず、ポカンとしてしまった。

開いた口が塞がらないとは、まさにこのことか。

「あの…すみませんけど、私にはお付き合いしている人が居るんです」

「嘘つけ」

「本当です!」

「そんな男、一度もここに来てる様子ないけどな。付き合ってるなら、彼女の演奏、聴きに来るもんじゃないのか?」

「それは…!前にサプライズて来られて、何だか凄くやりにくかったから、恥ずかしいからやめてって、私から言ったんです」

これは、本当のことだ。

それ以来、及川くんには、自分の部屋で、彼のためだけに、彼の好きな曲を弾くだけでなく、仕事ではやらない弾き語りもする。

「今の三井さんは、僕だけのピアニストなんだね」

及川くんにそう言われたから、

「これからも、リクエストしてくれたら、いつでも、なんでも弾くよ?」

それは、今も変わらない。